家族はサポートできることとできないことを明確にすることが大切
好子さんのように、患者さん本人が意思決定をしにくい場合には、家族が意思決定に参加したり、サポートのために動く必要があります。基本的に急な入院時などは、その手続きや病状説明のために家族が病院に行くことが必要になります。家族が遠方に住んでいてそのような対応が難しい時は、何か別の策を準備しておかなければなりません。
そのためにも、「ここまではできるけど、ここからはできない」という線引きを明確にすることも、いざという時に円滑に進めるために大切です。私たち在宅ケアを支えるスタッフは、様々な選択肢を提案して、本人と家族に合った選択ができるように精一杯サポートします。ですが、その上で意思決定をするのは、他でもない本人や家族なのです。
ところがなかには、「誰かが決めて動いてくれる」「やってもらって当たり前」と考えているケースが見られます。面倒がって関わろうとしなかったり、医療や介護的な正解があると信じて、それを医療者や介護者側に教えてもらえると誤解してしまっている人もいます。現役世代の家族だと「忙しくて手が回らない」と言いたくなるかもしれません。しかし、本人が意思決定できない場合、家族が関わらないと困るのは本人です。
そして、家族の関わりを考える上で、「人」「物」「お金」「夢」の整理が欠かせません。いざという時に、誰がどれだけ動けるのか、そのために何が必要になってくるのか、使えるお金はどれぐらいあるのか。これらを、いざという時になってから考え始めるのではなく、なるべく早い段階から考えて、一度整理してみましょう。その上で、もし家族が関わることが難しい場合には、そのための対策を用意しておくことが必要です。
著者プロフィール
中村明澄(なかむら あすみ)さん
医療法人社団澄乃会理事長。向日葵クリニック院長。緩和医療専門医・在宅医療専門医・家庭医療専門医。2000年東京女子医科大学卒業。山村の医療を学びに行った学生時代に初めて在宅医療に触れる。病気がありながらも自宅で生活を続けられる可能性に感激し在宅医療を志す。11年より在宅医療に従事し、12年8月に千葉市のクリニックを承継。17年11月に千葉県八千代市に向日葵クリニックとして移転。向日葵ナースステーション(訪問看護ステーション)・メディカルホームKuKuRu(緩和ケアの専門施設)を併設し、地域の高齢者医療と緩和ケアに力を注いでいる。病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演を通して楽しい時間を届けるNPO法人「キャトル・リーフ」理事長としても活躍。
『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』
著者:中村明澄 講談社 990円(税込)
1000人以上を看取ってきた在宅医が、最新の医療の常識をもとに最良の「最期」を送るための様々なヒントを提示します。周囲が良かれと思っていたことが、最期を迎える人には大きな負担になっていたなど、目からウロコが落ちる実例も多く登場。老親や配偶者の介護、自身の病気をはじめ「最期」を考える機会が増える中年期の人には特におすすめしたい一冊です。
写真/Shutterstock
構成/さくま健太
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