芸能人にとって、家族より長く時間を共にする芸能マネージャーという仕事。芸能人の現場に付き添うだけでなく、出演する作品を決めたり、営業をしたりとその仕事は多岐にわたります。

 

そんな芸能マネージャーの人生にフォーカスを当てた『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(ワニブックス)という本が出版されました。芸能人の才能が最大限活かされるように、あらゆる面でサポートし、マネジメントするマネージャーという職業の大変さ、魅力が詰まった本です。今回は、本にも登場する松坂桃李さんや菅田将暉さんの担当でもある「チーフマネージャーNさん」に、「マネージャーという仕事」についてお聞きします。

トップコート チーフマネージャー
Nさん(40代・女性)


大学卒業後、芸能プロダクションの求人に応募し仮採用されるも半年の試用期間中に仕事が取れずそのまま不採用に。悔しさをバネに2社目で本採用にこぎつけ、マネージャーとして3年間経験を積む。2社目を退社後トップコートに入社。同社で約20年にわたりマネージャーを務めている。

 


「多分面白いから行っておいで」と言える仕事を

 

——チーフマネージャーは、どの作品に出るかを決めるという場面が多いと思います。豪華なキャストですごく予算をかけてもヒットするとは限らないし、逆に前評判が全然良くなかったのに、蓋を開けてみたらハマり役でブレークのきっかけになった、なんてこともあって、オファーの段階では作品の善し悪しがわからないことも多いと思うんです。何を基準に、この作品に出演させようっていうのを決めてらっしゃるんでしょうか。

Nさん(以下、N):本当にケースバイケースです。企画書とプロットだけだったり、脚本が完成していて台本もあったり。原作がある場合はそれも参考にします。逆に、まだ何もなくて、プロデューサーの方から口頭で「こういう作品やりたいんです」という説明を聞いてジャッジしなきゃいけないケースもある。

一概に全部そうとは言えないですけど、意外とマネージャーの嗜好も影響していると思うんですよね。マネージャーが「好き」「やりたい」と思ったものが、結果的に成立するパターンは、実は結構多いんじゃないかなと感じていて。やっぱり、自分が面白いと思わないものに、「多分面白いから行っておいで」とは言えないし。この監督やプロデューサーが作るものが好きっていう感覚は、作品を決める大前提にあるかもしれないです。

社内のチーフマネージャー同士で話していてもみんな嗜好が違うんです。規模感の大きい大作が好きなタイプのマネージャーもいれば、私のようにインディペンデント作品やちょっとマニアックな作品が好きな人もいる。どういう作品が好きか、アーティストと話しているうちに、お互い影響を受けていく部分もありますね。
 

アーティストと「目標」を共有する

 

――Nさんは「毎年アーティストにも目標を考えてもらう」と本の中で綴られています。目指す方向をお互いに確認し合うことは、やはり大事なことなのでしょうか。

N:みんな口には出さなくても、「このぐらいまでにはこうなりたい」っていうのがあると思います。俳優は、それをより明確に持っていた方が目指す道もハッキリしやすいんです。「絶対に映画俳優になりたい!」って言ってる子に、一生懸命テレビドラマの仕事を持って行っても、心と実際の仕事が乖離してくじゃないですか。映画俳優という確固たる目標があるなら、「わかった、映画を中心に探そう。でも食わず嫌いもよくないから、こういうのをたまにはやってみたら」、そんな話の持っていき方もできます。