「アルバイトで生きている36歳未婚」だけれど、自分の日常を幸せに生きている


人知れず人間社会に紛れ込んでいた「X」。人間だと思っていた隣人は、本当は”X”なのではないか?――その得体の知れなさに不安を覚えた人々は「X」探しを始めます。主人公の良子は、そんな疑いをかけられた36歳の女性です。

宝くじ売り場とコンビニのかけもちアルバイトで生計をたて、唯一の趣味は図書館で借りた本を読むことという彼女は、小さな地方都市でひとりつましく暮らしています。特に仲の良い友だちがいるわけでも、何かを欲しがるわけでもなく、でもその生活に特に不満もありません。演じる上野さんいわく「初稿の原稿を読んだ時は、感情がつかめない、生身の人間っぽい温度感が感じられない、そこが『正体不明のX』に思えてしまうようなキャラクターでした」。

パリュスあや子さん(以下、パリュス):原作小説の良子は氷河期世代の40代で、生活スタイルは映画とは同じですが、基本的に自信がない、「自分なんてダメな人間だから」と思っている人です。「X」に対しても、その存在がこのどん詰まりな社会を変えてくれるかも、と他力本願に考えているところがあります。

『隣人X』 パリュスあや子著 ¥726/講談社文庫

上野樹里さん(以下、上野):映画の良子さんも「X」に対して「むしろちょっと面白いじゃん」ぐらいの感じがありますが、年齢が10歳近く下だったり、キャラクターはずいぶん違いますよね。

パリュス:映画の良子には、なんていうか、驚きました。一言でキャラクターを説明するのが難しい、そういう主人公ってあんまり見ない、珍しいんじゃないかなと思って。監督と上野さんが話し合って作り上げた人物だと思うんですが。

 

上野:基本的には、映画化するにあたりどうしたら面白くなるかなと思いながら、キャラクターを詰めていった感じです。彼女を「Xじゃないか?」と疑って近づく雑誌記者・笹とのラブストーリーにもなっていくので、クールでミステリアスという第一印象から、知れば知るほど日本人女性として不器用ながらも柔和な雰囲気が感じられ、仕事に追われる笹はなぜか良子が魅力的に見えてくるような。周囲には「36歳にもなって未婚で、バイトで生きてるなんて」と思われているかもしれないけれど、自分の平和な日常を幸せに生きている。同世代女性が共感する部分もありますが、「え?」と思うようなころもあるんですよね。強さとも弱さとも取れるような。例えば国立大卒で一流企業に勤めながら、何があったわけでもなく自分から退職してしまっているとか。でも笹が「自分の心をちゃんと見つめられる素敵な女性なんじゃないか」と思うようになるのもわかります。

パリュス:良子のプロフィールだけを聞くとすごくぼんやりしていますよね。何かわかりやすい職業や趣味があるわけでもなく、おっしゃったような、はたから見ると「かわいそう」とか「この人大丈夫かな」みたいな。でも知れば知るほど芯の強さのようなものが伝わってきます。