中古マンションを買った。
40歳、独身、フリーランス。金融機関からしたら融資したくない条件が揃いすぎてて、我ながらドン引きである。それでも、高い金利というデメリットを引き受けてでも、家がほしいと思ったのは、人生でひとつくらいはちゃんと何かを決断したかったからだ。
思えば、これまで人生でこうするのだと決めたことってほとんどなかった気がする。フリーランスになって13年目だけど、そもそもフリーランスになること自体、流れだった。もともとはあくまで会社員志望。だけど、未経験のライターを拾ってくれる編集プロダクションなんてどこもなくて、日銭ほしさに依頼を受けているうちに、なんとなくそのままフリーランスになった。一生フリーランスとして食っていくんだろうなと腹が決まったのは、この1〜2年の話である。自我の芽生えが乳幼児より遅い。
シングルでいることも、大それた信条があるわけじゃない。結婚という選択肢があるならば、そちらを選んでみたかった。だけど、自分の性格的にも、市場価値的にも、お呼びではないことを思い知り、これ以上もうすり減らされたくないという自衛の意味も込めて、ひとりで生きる道を選んだ。
結局のところ、どれも積極的に自分で決めたというよりは、ある種、消去法的な選択ばかりだった。なんとなくそれが自分の人生を自分で選び取れていないような決まりの悪さの一因になっている気がする。
そんな後ろめたさを断ち切るひとつの手段が、マンションを買うことだった。自分がほしいと思ったものを、自分の努力で、自分の選択で、手に入れる。僕はもう、トイザらスの広告を見ながら買い与えられることのないおもちゃで遊んでいる自分を夢想して心を慰めるしかできなかった子どもではない。マンションは、自分のお金で、自分の責任で、生きていることの証明書だった。
物件探しにかかった期間は、途中の挫折も含めて、およそ1年半。無事にローンの審査が下りて、決済手続きをしたのは9月の末。人生史上最大の買い物だというのに、不思議と実感はほとんどなく、判子を捺す書類の多さに辟易としている間に、手続きがすべて終わっていた。そして、およそ2ヶ月のリノベーション工事を経て、この原稿を書いている翌日が物件の引き渡し。いよいよ一国一城の主とやらになろうとしている。
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