投票結果が筒抜けになっていると分かれば、有権者は報復などを恐れて自由に投票できなくなってしまいます。たとえ学校の中のこととはいえ、民主主義のルールを教える場ですから、投票の秘密は、生徒に対して最初に教えるべき項目のひとつです。それにもかかわらず、教師側が率先して選挙結果を閲覧できる状況にしていたというのですから、あいた口がふさがりません。
筆者が注目しているのは、こうした行為が無意識的に行われていたという点です。
報道を見る限り、学校側が積極的に生徒を監視する目的で選挙結果を閲覧していたわけではなさそうです。つまり、本人たちには、それほど悪いことをしたという認識がないのかもしれません。実際、ある中学校ではメディアの取材に対して「投票結果は担当の教員以外は把握しないようにしている」と回答しています。悪気がないと言えばそれまでですが、考えようによっては、むしろ恐ろしい事といえるでしょう。
近い将来、日本の選挙もデジタル化される可能性がありますが、このままでは、デジタル選挙が行われた際、自治体の中から「念のため投票データを見える形で保存していました」といった事例が出てくる危険性が否定できません。しかも本人たちに悪気はなく、「選挙の監視ではないか」という批判が出ると、「結果は担当者以外は見ないようにしている」「システム障害に備えて念のために保存している」などと、暢気に回答してしまうこともあり得るのではないかと思えてきます。
実際、戦前・戦中には町内会(隣組)が軍部に悪用され、戦争に反対する国民を見つけ出し、弾圧するための組織として機能していました。翼賛選挙(1942年、大政翼賛会主導で行われた不公正な選挙)においては、戦争遂行を主張する候補への投票を強要する役割も果たしていたといえるでしょう。
軍部は「監視や弾圧に使うので住民の個人情報を出せ」と露骨には言わなかったと思われます。空襲などに備え、住民の安全を確保するために様々な情報が必要と説明していたはずです。情報を提供していた町内会の幹部は、それほど悪いことをしていたという認識がなかったかもしれません。
その気になれば、情報が自由に閲覧できる状態になっていること自体が問題であり、民主主義を守るためには、理由の如何を問わず、プライバシーの確保が重要であることがお分かりいただけると思います。
この大原則は、子どもに政治を教える際のイロハであり、たとえ生徒会選挙であったとしても、絶対的に守るべきルールなのですが、残念ながら一部の学校では無邪気に正反対のことが行われていました。厳しい言い方になりますが、政治教育を受けるべきなのは、(投票の秘密という大原則すら理解できていなかった)教師の方なのかもしれません。
前回記事「「体育館で雑魚寝」は今回も変わらず...自然災害の多い日本で、避難所の劣悪な環境が改善されないワケ」はこちら>>
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