公的年金の標準的な支給額を示す「モデル世帯」について見直しを求める声が高まっています。現在のモデル世帯は専業主婦世帯を想定したものですが、現実との乖離が激しくなっています。厚生労働省も複数のモデルを提示する形に向けて議論を開始しました。

年金の「平均支給額22万円」は、いまだに“専業主婦世帯”が基準...。現実と剥離した試算が継続されてきた理由_img0
イラスト:Shutterstock

現在のモデル世帯の給付額(厚生年金)は約22万円となっています。しかし、この水準の年金をもらえている人はそれほど多くありません。モデル世帯で想定されている現役時代の平均年収は約500万円ですが、給料が安い20代も含めて、退職するまでの平均年収が500万円台というのはかなりの高額所得者といってよいでしょう。しかも専業主婦世帯ですから、妻の分の年金も自動的に加わり、その結果として22万円という数字になっています。

 

このモデルを使うことの是非が議論されている理由は2つあります。ひとつは専業主婦世帯が減少しており、現実との乖離が進んでいること。もうひとつは、専業主婦世帯は単身世帯に比べて年金の給付額が多く、この数字が一人歩きすることで、年金をたくさんもらえると勘違いする人が増える可能性があることです。

現時点において平均的な年収だった人は、扶養する配偶者がいない場合、月額15万円程度の年金が支給されます。配偶者が働いている世帯では、配偶者がどのくらい年金をもらえるのかで最終的な世帯収入が決まってくることになります。

一方、専業主婦世帯の場合、妻の分については働いて収入を得ていなくても保険料を支払ったとみなされます。このため妻も年金の支給対象となり、単身者世帯より年金の額が多くなります。モデル世帯の給付額が大きく見えるのはそのためです。

現在のモデル世帯は1985年に導入されたものですが、当時は専業主婦世帯が6割を占めていました。独身の若い人達も、結婚すれば多くが専業主婦世帯になると考えられていたことから、このモデルが採用されたと考えられます。

しかし多くの人が認識しているように、40年の時を経て社会の状況は大きく変わり、専業主婦世帯はほぼ消滅しつつあります。こうした現実を考えた場合、共働き世帯、あるいは単身世帯で表示を行った方が、よりイメージしやすいのは間違いないでしょう。

 
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