「親の生活水準には届かない」。中流は高嶺の花

 

「今は何とかやっていますし、これまでも、そんなに生活が悲惨な感じでもなかったけど、想像していた“中流”とはちょっと違っていた。旅行して、貯金もたくさんあって、早くローンが終わっていてとか……。“中流”の定義が、自分の中ではもうちょっと上のイメージだった

本書で紹介している、正社員として30年以上働き続けてきた55歳(取材当時)の男性のこの言葉は、自分の暮らしが「中流より下」と回答した56%の人たちのリアルな胸の内なのでは、と感じます。

 

そのほかにも本書では、コロナ禍の影響で収入が激減した夫婦や、会社で給料アップができず副業や投資を始める若者たち、非正規雇用の派遣社員として働く40代の大卒男性などを取材。いずれも印象的なのは、「親の生活水準には届かない」「高望みはしていない」という思いでした。

NHKスペシャル取材班が、20〜50代の現役世代100人への聞き取り調査を行う中でわかったのは、もはや中流の暮らしは高嶺の花——。そう感じる人々の多さです。本書では、現役世代を取り巻く社会の変容について、次のように述べています。


かつて日本企業は、新卒一括採用、年功賃金、終身雇用、福利厚生などの制度で、従業員の人生を、ときに退職後も含めて手厚く面倒をみてきた。“一億総中流社会”を支えてきた、いわば「企業依存型」ともいえる雇用システムだが、こうした制度を続ける余力のある企業は少なくなり、企業と従業員の関係性は大きな曲がり角をむかえている。
——『中流危機』より