歌は押し付けがましくならないように
——歌手を55年続けて来られた前川さんがずっと転職を考えていらっしゃったなんて、すごく意外です。
前川:ほかに給料がいい仕事があったら、もうとっくに違う道を選んでいたでしょう。でも、歌って不思議なもんで、よくファンの方が「勇気をいただきました」とか言って下さるんです。自分の歌を聞いた人が、勇気とか喜びをもらう、それがよく分からなかったんです。「いや、助けるために歌ってるわけじゃないんだし」と思っていたから。
だけど、やっぱり僕の歌を励みにしている方もいらっしゃるんだなと。それで、そういった方たちがいるということを考えながら歌わないといけないなと、自分の気持ちを改めようと思ったんです。でも、歌い始めると、アガってしまって、聞いてくださる方の励みになるということは完全に頭から消え去る(笑)。とにかく、一生懸命に歌っています。
——ラジオショーで、歌に浸らない、聞かせようと思わないと断言されていましたよね。八代亜紀さんが亡くなられた時に、八代さんの歌に気持ちを込めないという哲学が話題になったこともありました。どう受け取るかはお客様にゆだねているというか、どう受け取ってもいいですよというニュアンスもあるんでしょうか?
前川:亜紀ちゃんも同じ九州出身※。九州の人って、ほんわかとしていて、ガツガツしてないんですよね。何となくだけど、頑張ってるぞ感がない。もちろん聞いていただきたいんだけど、押し付けがましくなりたくない。聞かせるぞ、みたいな感じじゃないんです。
※八代亜紀さんは熊本県出身
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