日本は窮屈だ。と、書くと主語が大きすぎるでしょうか。でも、ニュースを見たり、海外に出てみると「日本よりも自由でうらやましい、考え方が進んでいるな」と感じることがありませんか。でも、本作の主人公から見た日本もまたそんな存在なのでした。母国・中国では規制されている表現を描いてみたい、と日本にやってきた漫画家が主人公の『日本の月はまるく見える』が2月22日に発売されました。

母国・中国で、漫画家として細々と収入を得ていた夢言(ムゲン)でしたが、中国ではBL漫画の規制が厳しく、男性同士が愛し合う表現は思い通りに描くことができません。

 

以前は、日本の漫画投稿サイトで自由にBL作品を描いて投稿していたのですが、中国ではネット接続にも規制がかかってしまい、そのサイトにアクセスできない状態に。好きな表現が描けないことで、彼女は漫画を描くことをあきらめかけていました。
そんな時、日本の漫画編集者から連載のオファーが届きます。でも、ネット規制で中国国内からは連絡が取れません。

そんな中、彼女は幼馴染の致遠(チエン)とお見合いをし、結婚させられることに。

 

人生の岐路に立たされた彼女でしたが、致遠に励まされ、自分の好きな表現で漫画を描くため、日本に行ってみることにします――。

 

「日本の月はまるい」と思う理由は寛容さ


タイトルにある「外国の月がまるく見える」という言葉ですが、これは中国で、自分の国より他国が優れていると思う人を揶揄する時の言葉なのだそうです。

日本に訪れた夢言は、変な中国人だと思われないよう、下調べをしたり考え込みながら「日本的正解」な行動をしようとします。日本人は「遅刻に厳しい」から絶対に遅刻しない、日本人は「建前上手」だから気を遣わせないように⋯⋯など。

 

私たち読者から見ても「そうとらえるんだ」と驚きと新鮮な気持ちになるシーンが続々と。それでも文化の違いは感じてしまうもので。

 

けれど、日本の編集者の女性は夢言の言動に「?」となっても、「違いは悪いことじゃない」と考え、受け入れています。夢言は、編集者が自分を信頼しようとしてくれるところに感動します。彼女は、日本社会の寛容な部分に「月のまるさ」を感じているのでしょう。

でも、政府に監視されていることをシリアスにとらえている夢言に対し、日本の編集者側はこんなふうにどこか軽い気持ちで考えてしまっているのは、夢言たちからするとカルチャーショックになりそうです。

 

とはいえ、日本と中国は似ているところも⋯


主人公にとっては「月がまるく見える」日本ですが、それは外から良く見えているだけなんじゃないかな、とも思います。なぜなら、日本と中国ではちょっと似たところもあるから。

たとえば、中学では「恋愛は早すぎる」と思われ、勉強を優先させるところ。適齢期になったら結婚して安定するのが一番で、いい年をして独身で漫画家をしている女性は「変な人」と思われるところ。そして、「あなたのためだから」攻撃。身に覚えのあるものばかりです。

 

今の時代だと、日本の方がもう少しゆるい気もしますが、根本的には似ているなと感じませんか? 残念ながら日本はそんなに理想郷でもないんだよね⋯⋯と主人公に言いたくなります。

作者は中国の一人っ子政策をテーマに描いた読切「嘘をつく人」が反響を呼び、今回の連載に至ったそう。本作も実際に中国で育った人だからこそ描ける表現だな、と感じるシーンがたくさんあります。読んでいると、中国人から見た日本という国の印象や、中国人が抱える感情に、日本で触れることができる。それだけですでに価値があるなと感じます。もっとこれまであなたが見てきた、感じてきた世界をここで見せてほしい⋯⋯! と主人公も作者も応援したくなる作品です。

 


『日本の月はまるく見える』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『日本の月はまるく見える』
史セツキ (著)

母国・中国でBL漫画を連載中の夢言。規制が多くなかなか思った通りの作品を描けず、そして収入も満足に得られず、悶々とした日々を送っていた。そんな時、お見合いの話が舞い込んだ。相手は同級生の致遠。彼とは夢言が描いた漫画に関して因縁があり、夢言が今一番会いたくない男性だった。


作者プロフィール 

史セツキ
『噓をつく人』 で第80回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞、『往復距離』 でモーニング月例賞2021年12月期佳作受賞を経て、「モーニング」2023年22・23合併号掲載の読み切り『日本の月はまるく見える』を第1話とした連載を、「モーニング・ツー」にて連載中。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩