子どもと接しているとわかるのが、かつては子どもだった私たち大人は、気づけば子どもの視点を失ってしまっていること。一度失ったその視点は、想像だけではなかなか実感できなくなっているものです。12月に1巻が発売されたほのぼのコメディ『こどもどろぼう』は、子どもの視点を盗んでしまった泥棒と、大人の視点を押しつけられた子どもの「入れ替わり」の話です。

令和の「入れ替わりもの」は、子どもの視点を盗んだ泥棒と、大人の視点を押しつけられた子どもの切なさを描く!_img0
『こどもどろぼう』(1) (モーニング KC)

父・母・娘のごく普通の3人家族・佐野家。出かけようと家を出ると、まだあどけなさの残る小学一年生の一人娘・みのりが忘れ物をしたことに気づきます。みのりが一人、家に戻ると、ちょうど空き巣に入っていた泥棒と鉢合わせ。うっかりベランダからその泥棒の真上に落ちてしまうと、二人の身体が入れ替わってしまった⋯⋯という「入れ替わりもの」ストーリーです。

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ポイントなのは、空き巣をするような泥棒のおっさんと、幸せに暮らす小一女児という、性別や年齢だけでなく境遇が全然違う二人が入れ替わったというところ。

 

あどけない仕草のおっさんに思わず萌える!


「入れ替わりもの」だとだいたい入れ替わっちゃった当事者二人視点で語られて、自分の身体じゃないという戸惑いやドキドキ感がメインになりがちなのですが、本作は、入れ替わった二人に接するみのりの父母や周りの反応にフォーカスしている感じがあります。

まず小一女児の心を持ったおっさん泥棒の仕草のかわいさをあえて描いている気がします。姿はおっさんなのに、女児の姿の時と同じく、なんかかわいいと思って萌えてしまうんですよね⋯⋯。

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でも、これは私が女性だからかもしれません。作中でみのりの父は、おっさん(姿のみのり)が泣いたり甘える様子にドン引きしているのですが、母の方は「中身はみのりなんだから」と意外とすんなり受け入れている大きな違いがあります。
内面のあどけなさは、おっさんな見た目でもかき消されることはないってことでしょうか。私はやはりこの母視点になってしまうんですよね。ここは男女で読み方が分かれる部分かも!

忘れていた「子ども視点」を取り戻す


入れ替わったことで二人がそれぞれ感じる「違い」から見えてくるのは、大人が忘れていた「子ども視点」そのもの。
みのりの身体になったおっさん泥棒が、大人や車の大きさをしみじみ感じたり、子どもの身体で大人と同じように動くとくたびれてしまったり。

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逆に、おっさんの身体になったみのりが、砂場で遊んでいると不審者だと思われることに疑問を感じたり。子どもは普段、大人の世界に押し込められて、「大人仕様」の中で生きているのかもと思う描写です。

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子どもの頃は自然にしていたのに、大人になると「大人がこんなことしてるのは変だ」という常識に縛られて、気づけばやらなくなっていたこと、思い返すといろいろあるんじゃないでしょうか。

みのりは「子どもの時間」を盗まれてしまった


女児の身体になった泥棒がふっと自分の子どもの頃を振り返るシーンでは、「この泥棒だってもともと子どもだったんだもんね」と思い出し、ちょっと切なくなります。
この「入れ替わり」は、彼にとっては幸せな子ども時代の再体験なのかも。もしかすると彼の子ども時代はこんなに幸せじゃなかったのかもしれませんね。

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一方で、おっさんの姿になったみのりは「大人仕様」の中で生きないといけない窮屈さを感じていて、このままではかわいそうなんですよね。彼女が子どもとして過ごす時間も盗まれてしまったのです。

おそらく今後は、泥棒側はもう元の姿に戻らなくていいやと思い、みのり側は早く元の姿に戻りたい思いが高まるんじゃないだろうかと思います。そのアンバランスさが問題になっていきそう。

ほんわりほのぼのしつつも、みのり側の「子どもの心」を思うと切なくなってしまう。ここらへんの問題をどう着地させるのか楽しみな作品です。

 


『こどもどろぼう』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『こどもどろぼう』
山 吹 (著)

その日泥棒に盗まれたのは、子どもの身体でした――。
幸せを絵に描いたような家族・佐野家の一人娘・みのり。
ある日いつものように元気良く忘れ物をしたみのりが家に戻ると、空き巣に入っていた泥棒と遭遇。ベランダから転落した拍子に、なんと泥棒と身体が入れ替わってしまう。
互いの身体を取り戻すまでの間⋯⋯父、母、娘、泥棒、奇妙な四人暮らしが始まる。不穏系ほのぼのコメディー開幕!


作者プロフィール 

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山吹
漫画家。第83回ちばてつや賞一般部門にて、『ネギのゆくえ』 が準大賞を受賞。2023年7月、「モーニング・ツー」にて『こどもどろぼう』で連載デビュー。
X(旧Twitter)アカウント:@yamabuki_san


構成/大槻由実子
編集/坂口彩
 

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