昨年、広瀬すずさん主演で映画化された『水は海に向かって流れる』の原作者・田島列島さん。その漫画はほわっとした絵柄でゆるっとしながらも、人間関係のややこしさやつらさをユーモアを交えつつ描き、シリアスになりすぎないのに心に残る不思議な読後感があります。現在連載中の最新作『みちかとまり』は、今までの作風とはちょっと違う雰囲気だと話題になっています。

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『みちかとまり』(1) (モーニング KC)

田舎に住む8歳の小学生・まりは、竹やぶの中で同い年の不思議な女の子・みちかと出逢います。近所のおばちゃんは「この竹やぶはねェ、時々子どもが生えてくんのよ」と言いました。

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おばちゃんの家で暮らすみちかは学校に行かなくてもいい子なのだそう。学校に行きたくないまりは、みちかちゃんの不思議な力によって、みちかちゃんと入れ替わることになってしまいます。

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まりになりすましたみちかは代わりに学校へ向かいます。そこでまりをいつもいじめてくる男子・石崎の「目玉」をほじくり出してしまうのですが……、気づくと何故か石崎の目玉は元の通り。みちかとの出会いと、この一件から、まりは不思議な世界に足を踏み入れることになります。

田舎の小学生のほっこり話なのは冒頭だけ。すぐさま発揮されるみちかの不思議な能力に驚き、唐突なグロテスクな描写におっかなびっくりしながら、気づけばまりとともに、作品を読む私たちも異世界に少しずつ引きずりこまれてしまうのです。

 


人か神様かわからない存在のみちか


「竹やぶに生えてた子供を神様にするか人間にするか決めるのは、最初に見つけた人間なんだよ」と近所のおばちゃん(物語のカギを握る一人のように見えます)は言います。この日本の神話を思い出させる、神と人間の境目が曖昧な感じになんだかドキドキしてしまいます。

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神様のいる世界への入り口が、近所のなんてことない草むらだったりする展開はちょっとジブリ的。でもジブリよりもさらに人と神様のいる世界の区切りが曖昧に描かれているように感じます。
 

 

「人間になるのは幸せなのか?」という話なのかもしれない

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みちかと同じように「竹やぶに生えてた」さつきという年上の女性が現れます。
彼女は、発見者である近所のおばちゃんに人間になることを決められ、そこからは人間として生きてきたようです。「人間になってよかったかい」と聞かれた彼女は思わず本心を隠してしまいます。

作中で、さつきが「あーあ、神様になりたかったなあ…」と一人つぶやく姿を見ると、さつきが苦しんだ不自由な人間としての生活が思い浮かぶようです。私たち人間の暮らしは、しんどいことを避けるために、みちかとまりのように入れ替わるなんてできませんものね。
そうはっきりと語られてはいませんが、私の目には、大人になってしまったさつきはまりをうらやましく感じているように見えます。
その一方で、どちらかというとまだ神に近い存在にも見えるみちかは、まりのことを「人間として生きることっていいな」と無邪気に思っているようにも見えます。

そんなことを考えながら読んでいると、もしかすると、この作品って、生まれたばかりの人間が、初めて出会った人(=多くの場合は親)に存在を認められ、人間として生きることを決めるまでのプロセスを描いているのでは、という気もしてくるんです。

表面的な作風はこれまでとがらっと変われど、しがらみや関係のややこしさや苦しみを抱きつつ生きてゆく人たちを描いているのはこれまでと共通していて、やっぱり田島列島節だな〜と思う「世にも奇妙なジブリ」的な本作。2巻が2月22日に発売されたこのタイミングにぜひ読んでみてください。

 


『みちかとまり』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『みちかとまり』
田島 列島 (著)

「竹やぶに生えてた子供を、神様にするか人間にするか決めるのは、最初にみつけた人間なんだよ」8歳の女の子まりはある日、竹やぶでみちかと出会う。みちかが次々と起こす不思議な出来事のおかげで、まりの世界はこれまでと一変してしまうのだった。
『子供はわかってあげない』『水は海に向かって流れる』の異才・田島列島が贈る、ゆるふわちょいグロ神話風味ガールミーツガールが開幕。


作者プロフィール 

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田島列島
2008年前期MANGA OPENにてさだやす圭賞を受賞。デビュー作『子供はわかってあげない』(上下巻)、第2作『水は海に向かって流れる』(全3巻)が各マンガ賞に次々とランクインし話題を呼ぶ。『子供はわかってあげない』は2021年に実写映画化もされた。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩
 

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