昨年末に東京・新宿の歌舞伎町のホストクラブの売掛金が問題視されるようになって以来、これまでは触れてはいけないとされてきた歌舞伎町の搾取の構図が明るみに出てきています。悪質な手口で搾取される弱者を救いたいと、歌舞伎町でプロボノ(社会貢献)活動を行う型破りな女性弁護士が主人公の『ギャル弁 ー歌舞伎町の幽霊ー』の1巻が1月10日に発売になりました。

歌舞伎町で居場所のない若い子たちを助ける活動をしている女性弁護士・久語れいなは、見た目は派手なギャルの弁護士。夜な夜な歌舞伎町に出向き、虐げられている若者を救おうとします。この日の夜は、ガールズバーに自ら店員として潜入。

 

彼女は被害者の女の子から依頼され、周辺のキャバやクラブで恐喝や強制わいせつなどの問題を起こした男に接近し、高額の示談金に応じるよう迫ります。しかし、相手が相手だけに穏便に済むわけがなく⋯⋯。

歌舞伎町の闇を背負い、暴力が当たり前な犯罪者たちを相手にしているので、身の危険が多い彼女の活動。でも彼女もその闇に負けない気迫と、度胸を持っていたのです。

 

彼女は普段はノリのいいギャルですが、犯罪者たちと対峙する時には、どこか狂気をはらんでいるよう。そしてこの活動には謝礼は不要で、「捨てるに捨てられない思い出の品」を”報酬”としてくれればいいと言います。
本作は、こうして完全にボランティアとして人助けをしている彼女が歌舞伎町の闇に巻き込まれていくうち、彼女自身の闇も見えてくるストーリーなのです。

 


彼女はこの活動で「感謝されたい」のではなかった


れいなが引き受けている依頼相手は歌舞伎町で弱い立場にいる者たちです。合法ドラッグ、パパ活女子、メンコンカフェ(メンズコンセプトカフェ)など、巧みに張り巡らされた罠に引っかかってしまった彼らに代わって、加害者の元に出向き、慰謝料を請求し、示談の話をつけてくるのです。でも、彼女は感謝されたくてこの活動をしているわけではないと言います。

 

おそらく彼女自身がかつて、悪どい大人たちによって社会の落とし穴に落とされた女の子だったのでは、と感じる描写がちらほら出てきます。そして、過去に何か罪を犯してしまったことも。弁護士になることで必死に正しい道に戻り、過去に自分がしてきたことを償おうとしている彼女からは、同じ「穴に落とされた」弱き者たちが少しでも苦しまないようにという願いが感じられます。
 

「表」のれいなの前に現れる「裏」の女の存在


たとえばギャラ飲みで女の子の人材派遣業をしているマリアという女性。彼女はれいなと自分のやっていることは「本質的には同じ」なのだと言います。

 

法律の力で弱い立場の人間を救いたいと思うれいなに対し、マリアは、金こそが女の子たちを救うものだと考え、彼女たちを守るために自分の身体を使ってでも稼ぎ、その金を再分配することで救っています。
そんなグレーな行為をしながら、「搾取されている女性を救っている」のは自分と同じなので、れいなはマリアを否定しきれないのでした。
れいなが歌舞伎町の表の女神なら、マリアは裏の女神なのです。同じ目的を持ちながら、異なる手段で進むこの二人は今後どんな関係になってゆくのでしょうか。
 

感情でつながった振りをして搾取する歌舞伎町の手口


また、マリア登場回の次には、擬似恋愛を作り出すも「パパ」にストーカーされ、足りない愛情の代償に金銭を要求されるパパ活女子が出てきます。

 

彼らを見ていると、感情を絡ませ、擬似恋愛・擬似家族を作りあげ、最終的には金銭や肉体を搾取する。これが歌舞伎町の基本構造なんだな、と思うのです。

搾取のために絡ませた感情を、法律というナイフですっぱり切り離してゆき、示談で終わらせてゆくれいな。彼女が歌舞伎町で活動する本当の理由が明かされる日は来るのでしょうか。

 


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<作品紹介>
『ギャル弁 ー歌舞伎町の幽霊ー』
ヨウイチ (著)

歌舞伎町には、この街で搾取されたり虐げられたりしている弱き人々の声なき声を拾い上げ、法律の知識を使って彼らを救済してくれる弁護士がいるという⋯⋯。しかも依頼には謝礼は不要で、謝礼の代わりは「捨てるに捨てられない思い出の品」、それだけでいいという⋯⋯。金髪にピンヒールの中卒のギャル弁護士・久語れいなが、歌舞伎町のアングラを舞台に大活躍する、リーガルサスペンス。



作者プロフィール 
漫画・ヨウイチ
2022年に「弁護人」で第21回モーニング月例賞奨励賞を受賞しデビュー。現在、『ギャル弁 ー歌舞伎町の幽霊ー』をコミックDAYSで連載中。
X(旧Twitter)アカウント:@NnmkHr


法律監修・弁護士 高崎 俊(弁護士法人原法律事務所)


構成/大槻由実子
編集/坂口彩