「自分の世界を変えたくてたまらなかった」思いが後押しした


離婚から3年。記者として“夏のネタ”を探していたダイアンさんは知人からの情報提供を元に、ニューヨーク州のモントークという海の見える町を訪れます。そこで目を奪われたのが、穏やかな波に身を委ねるサーファーたちの姿でした。

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“サーフィン”に何か運命めいたものを感じながらも、ダイアンさんは湧き出てきた「ここですごしてみたい」という気持ちを打ち消そうとします。ですが、この時のダイアンさんはいつもと違いました。
 


ここでひとりで何をするわけ?
サーフィンなんてどうやっておぼえるの? サーフボードもウェットスーツも持ってないし、どこでどうやって買えばいいのかさえわからないのに。
(中略)
車をとめた場所まであと少しというところで立ちどまり、そういうネガティブな声をすべて追いだしてきびすを返した。いままでいったい何度これをやってきただろう。慣れてないからとか、心配だからとか理由をつけて、自分でこうと決めた枠からはみだしそうなことには、トライしようとすらしなかった。でも、そういう癖を直し、不安を克服し——少なくとも、そういうところに邪魔をされずに——自分の世界を変えたくてたまらなかった。
 


離婚をして、収入はふたりぶんからひとりぶんになったものの、忙しさも相まって支出をなかなか減らせず、やりくりに苦労していたというダイアンさん。「そんな贅沢をしていいんだろうか」という罪悪感を振り切って、サーフィンのために夏の休暇を取ることを決意します。

 


はてしない多幸感と解放感を、サーフィンで味わう


そして待ちに待った休暇。サーフィン・スクールに参加したダイアンさんは「レッスンが終わるころになっても、たらふく飲んだ海水と、腰の痛みと、ズキズキする肩の筋肉痛以外、目に見える努力の成果は何もなさそうだと思いはじめていた」と語っています。ですが、その時はすぐに訪れました。

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20分ほどそれが続いたころだろうか。(インストラクターの)ショーンが押し、ボードが前にすべりだすのを感じた。深く息を吸い、腕で上体を起こして身体をひねり、足をすばやく引きつけ、立ちあがって、波に乗った。最高だった。一瞬にして不思議なエンジンに接続され、その推進力でひとりでに海の上を進んでいるような気がした。ボードはもはや存在せず、水上のヘルメスさながらに、翼のかわりにかかとから水しぶきを出して、深海から伝わるエネルギーで岸に向かって飛んでいるような感覚。やがて、また突然重心がぶれ、ふたたび後ろ向きに海に落ちていた。

でもそんなことはどうでもよかった。アドレナリンが全身を駆けめぐり、心臓が胸から飛びでそうだった。強烈な高揚感だった——はてしない多幸感と解放感で病みつきになりそうだった。そして、そう、もっとそれが味わいたくなった。