共創とは「推し活」のようなもの?
——牛窪さんは、恋愛結婚に代わる概念として、「共創結婚」を提唱されています。これはどんなものなのでしょうか。改めて教えてください。
牛窪恵さん(以下、牛窪):マーケティングには「共創」(コ・クリエーション)という概念があります。2018年ぐらいからTwitter(現:X)などSNSで、ハッシュタグを付けて呟くことで、似た価値観の人同士が瞬時に繋がる動きが加速しました。例えば、私は阪神タイガースファンですが、「#tigers」と付けて呟くと、同じように「阪神を推す」人たち(ファン)とすぐに繋がることができる。あの選手が怪我したけど心配だね、今年入った若手選手を応援したいね、というふうに、みんなで協力し合って支え合う。
もちろん、私の全てが阪神タイガースでできているわけではなく、スイーツも好き、フィギュアスケートも好きなど、自分に複数の軸があります。もしかすると、大きな幹の部分は違うかもしれない。けれど、枝のいずれかが「部分的に一緒」でさえあれば、その人たちと価値観を共有し合える。それが「共創」や「推し活」の魅力です。
完全じゃなくても、70%合っていれば高め合える
牛窪:もう一つの柱は、「不完全であること」が前提ということです。近年、「共創」による商品開発を行う企業が増えており、彼らはまず不完全な「ベータ版(β版)」を、一部の消費者に提示します。サンプル版とも言えますね。そのベータ版に対して皆さんどう思いますか? ご意見をくださいと働きかけ、消費者、特にその商品やサービスに関心が高そうな方々に意見を聞くわけです。すると、同じようにその商品やサービスを「より良いものにしたい」と考える消費者同士が繋がって、不完全なモノやコトに対して意見を出し合う。そうするなかで、ファン同士が協力し合って、同じ時間や価値観を共有する楽しさに包まれていくのです。
私は、結婚した後についても同じことが言えると思っています。恋愛や結婚までの過程は、最終的に一人を奪い合う椅子取りゲームですが、結婚後にカップルが成立したあとは違います。パートナーと対等に、協力し合って話し合いを重ねることで、関係性をよりよくしていくことができる。今の二人の関係が70%程度でも、共に考えて修正し合える、つまり共創の概念を共有できる相手となら、PDCAサイクルを回すことで、お互いの関係性を高めることができるはずなんです。
結婚する前から、100%価値観が合う相手を探そうとしたり、あれこれ条件をあげて「高望みはしない」「フツーでいい」と言う人たちもいますが、仮に「フツー=50%(0.5)」と考えると、「清潔感」「年収」など、フツーでいいとの条件が7つ重なれば、お相手に出会える確率は、0.5×0.5×…で、0.078(0.8%)にまで減ってしまいます(ドレイクの法則)。
ですが、端にあるいくつかの枝が50%に達していなくても、大切にしたい2、3の枝の部分で価値観がすごく合うことはありますよね。それなら、最初から100%を望まず、二人で話し合ってすり合わせながら、少しずつ100%を目指すほうが現実的だし、持続可能性も高いのです。
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