恋愛しない人イジリの罪深さ


筆者が、ザ・恋愛至上主義だなと感じたのは2022年に放送された『恋なんて、本気でやってどうするの?』(フジテレビ系、カンテレ制作)。恋愛経験がなく、これからも恋愛をする気がない主人公を、恋愛体質な親友たちが「なんで恋しないの?」と質問攻めにし、挙句「高齢処女」と言い放ちます。他にも、主人公に「そこらへんの男ではやく処女を捨てろ」と言う人まで現れて、主人公はそそのかされ、好きでもない人と関係を持とうとするのです。

ヒットドラマに恋愛要素は本当に必須?「恋愛至上主義の呪い」から解き放ってくれるエンタメ作品たち_img0
 

そして、主人公は恋に踏み出すのですが、その理由を「女として最低限のことを経験しておきたいだけ」と言うのです。徹頭徹尾、「恋してなんぼ、セックスして一人前」みたいな空気で、なんのエクスキューズもフォローもありませんでした。

 


恋しない人が主人公


2022年に放送された『恋せぬふたり』(NHK)は反恋愛至上主義でありながら、マイノリティにスポットをあてる作品でもありました。脚本家の吉田恵里香氏がこの作品で『第40回(2021年度)向田邦子賞』を受賞しています。

『恋せぬふたり』では、他者に恋愛感情を抱かない、性的に惹かれない「アロマンティック・アセクシュアル」の男女の同居生活が描かれます。主人公は周囲の「好き=恋愛感情」という決めつけに戸惑い、「恋愛しないのはおかしい」という目で見られることに辟易とするのですが、やっぱり今の社会では、いい年して恋愛経験がないと訳アリみたいな目で見られてしまうことってあります。また、たとえ恋愛する人であっても、なんでもかんでも恋愛文脈に押し込められ、恋愛は人生に必須みたいに押し付けられる風潮に嫌気がさしている人も少なくないのではないでしょうか。

ドラマではないですが、三浦透子主演の映画『そばかす』も「アロマンティック・アセクシュアル」を描いた作品で、高い評価を受けています。セクシャルマイノリティが登場する作品は増えてきましたが、「アロマンティック・アセクシュアル」に関してはまだまだ少ないのが現状です。『恋せぬふたり』は、「アロマンティック・アセクシュアル」の存在が知られていないことを考慮してか、少し説明チックな構成になっていました。これから、本当に自然に登場して、そういう人もいるよね、という感じになってほしいと感じます。