攻撃されてムカつくのは、心が生きている証拠

「心の中でだったら、いくらでも悪態をついていい」。認知症高齢者と日々向き合う介護職員の本音とは?_img0
 

畑江さんは怒りに駆られてしまう自分に対し、「介護士失格だ」と落ち込むこともあったそうですが、最終的にはそんな自分を肯定的に捉えられるようになっていました。

「どんなケースでもそうだが、“刺激された感情”を否定し、無視し、あるいは抑え続けていると、いつか爆発するときが来る。そうならないためには、まず自分の感情と向き合い、肯定してみることも大事だと思う。攻撃されてムカつくのは当然だし、それは何より心が生きている証拠だ。何も恥じることではない。心の中でだったら、いくらでも悪態をついていい。聞くに堪えない言葉で言い返しても、ジャイアントスイングをキメても、なんなら場外乱闘に持ち込んだっていい。大事なのは、それを実際に行動に移してしまわないこと」

どの職業においても理想と現実とのギャップはあるでしょうが、そこで重要なのは、理想を声高に叫ぶことでもあきらめることでもなく、自分へのダメージを最小限に止めるように折り合いをつけていくことなのかもしれません。理想とは大きく異なる現実に柔軟な姿勢で向き合えるようになった畑江さんは、超えてはならない一線を超えてしまった同業者に対しても優しいまなざしを向けるのでした。

「いつでも優しく丁寧でありたい、穏やかな心の持ち主でありたい、利用者の健康と生活を大事にしたい……など、介護士としてこうありたい、という理想は多くの介護職員が持っていると思う。けれど、だからこそ、一生懸命やるほど、相手を思うほど、ちょっとしたきっかけで呆気なく鬼になってしまう……。やってしまったことは許されないが、ニュースになってしまった介護職員のなかには、きっとそんな人たちもいたんじゃないだろうか」

 


●著者プロフィール
畑江ちか子(はたえ ちかこ)さん

1990年神奈川県生まれ。高校卒業後、事務職に就く。認知症グループホームで看取りをしてもらった祖父との別れをきっかけに、介護職へ転身。需要と供給のバランスがズレている介護業界のことをたくさんの人に知ってほしいという思いから、第1回「気がつけば○○ノンフィクション賞」に応募するも、惜しくも落選。しかし、編集者の目にとまり、その後も介護職での経験や原稿のブラッシュアップを重ねて出版にまでこぎつけた。元来オタク気質で、10代から続く推し活が、日々を生きる糧となっている。趣味は乙女ゲーム、食べること。

「心の中でだったら、いくらでも悪態をついていい」。認知症高齢者と日々向き合う介護職員の本音とは?_img1
 

『気がつけば認知症介護の沼にいた。』
著者:畑江ちか子 古書みつけ 1650円(税込)

オタク歴20年、社会人歴10年。コミュ障で奥手な30代の推し活ヲトメが、就労先であるグループホームで目の当たりにした認知症介護の現状を、笑いと涙たっぷりに書きつづります。目を疑うほど過酷な現実を描きながらも、そのユーモラスな筆致のおかげで殺伐とした雰囲気は皆無。温かい気持ちに包まれながら読み進むことができるでしょう。


写真:Shutterstock
構成/さくま健太
 
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