親の身辺整理が進まない原因は親自身にあり!?

「厄介で心躍る」。80代両親の「家じまい」を手伝った60代娘が、さまざまな困難を通して得たものとは?_img0
 

後日、冷静さを取り戻した井形さんは一連の出来事を以下のように振り返っています。

「介護手前の親をヘルプする『介助』で立ちはだかってくるのが、この手の問題らしい。自分はまだ十分判断能力もあるし、家のことは一番分かっているという親の自負(プライド)。傍目からは『違う』『手遅れになる』『危険』と見えるが、突っぱねられる。そうなるとこちらもヒートアップして反論する。どこまでやっても信用されない」
 

 


真正面からぶつかってもエネルギーを消耗するだけだと悟った井形さんは、親のいない間にこっそりと書類を確認・修正するという作戦に切り替えます。とはいえ、いつの間にか井形さんの心身は、親の自分でできるという「現役意識」と手出しされてなるものかという「意地」に蝕まれていたようで、原因不明の湿疹や痛みに悩まされることもありました。

「マンション購入の手続きに、この遺言書作成が加わり、司法書士や税理士との書類のやりとりも増えた。東京に居ても一日の大半を親のために費やしている。スケジュールを間違えないよう、手帳は書き込みでびっしりとなり、肝心の仕事の予定は付せん紙に書き綴って手帳の表に貼る始末」

井形さんは自身の生活と気持ちの大部分を親の身辺整理に注ぐはめになってしまいます。まさに踏んだり蹴ったりのようにも見えますが、どうやら井形さんにとっては嫌なことばかりではなかったようです。

「親から頼られ、親の前に立つことが、これほど厄介で心躍ることかと初めて知った。親の介護で盛り上がる人たちも、同じ思いだったのだろうか」