保護者会で知る現実

「神田さん、ごきげんよう~! 保護者懇親会いらっしゃるの久しぶりじゃない? うちの英玲奈がいつも流花ちゃんにお世話になってます。 このまえのディズニーランド、部活のみんなで行けて本当に楽しかったって」

土曜保護者会のあとの、おしゃれなイタリアンランチは洗練された母親の大社交会だ。

平日の保護者会には出られないので、今日は貴重な会だから、会費7000円は地味に痛かったけれど参加した。

「あ……あの、こちらこそ流花がいつもお世話になっています!」

私は思わず椅子から立ち上がって、声をかけてくれたお母さんに挨拶する。きっとめったに参加できない私が、疎外感を味わわないように、自分が誰の母親かわかるようにさりげなく名乗ってくれた。この学校のお母さんたちは、そういう気遣いが息をするようにできるのだ。

完璧なお母さんたち。裕福で、余裕があって、気さくでそれでいて上品。

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これが流花の学校生活。中学生がディズニ―ランドにいつでも気軽にいって、数万円を使ってたっぷり楽しむ世界。別れがたくて、お母さんに急に連絡をして来てもらい、そのままホテル女子会で盛り上がれる世界。それに軽やかにこたえられる家庭の余裕。

私はいつも、頭の中で計算をしている。限られた仕事以外の時間をどう使うか。手取り38万円を、私と流花の生活費と教育費、交際費にどう切り分けるか。

今の時代、38万円だってありがたい手取りだとわかっている。でも私が24年間必死で積み上げた月給分を、月のレジャー費くらいに考えている層が東京にはたくさんいる。

授業料が払えて、衣食住を確保できるくらいで東京の中学受験に参戦したらいけなかったのかもしれない。

だけど、迷ったとき、自分の人生の後悔が顔を出した。

もっと学歴があったなら、きっと今頃プロジェクトリーダーを任されていたかも。留学して英語が話せたら、外資系に転職できたかも。生涯の友達が中高一貫校でできていたら、話をたくさんきいてもらえたかも……。

流花にそれを全部渡したい。ちょっと無理をしてでも。

私は保護者会で精一杯の作り笑いをしながら、必死にパンプスの中で足の指を丸めた。

次回予告
【後編】近づいてくる研修申込の締め切り。そのとき意外なことが起こり……?

 
小説/佐野倫子
イラスト/Semo
編集/山本理沙
 

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