平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 


第63話 サプライズパーティ

 

「えッ!? 美弥、プロポーズされたって、じゃあ本当に信二さんと結婚するの? そりゃすごくお金持ちだけど……10歳の娘さんがいて、難しいって言ってたじゃない」

満開の桜が見られるカフェのテラス席で、大学時代からの友人二人が戸惑いがちにこちらを見た。待ち望んだ、親友への結婚報告シーン。

35歳で少々二人より遅れたけれど、憂いなく祝ってほしい。SNS映え最高の、フルーツとクリームがたっぷりのったパンケーキが運ばれてきた。写真を撮る前に、お祝いの言葉を二人から引き出したい。

「それがね、信二さんが娘の莉子ちゃんに結婚のお伺いを立てたらうれしそうにしてくれたらしいの。本当のママは彼女が5歳のときに亡くなってしまったから、本当は淋しかったのかもね。何回か会ったときはパパを取られるのを警戒してるのかなって感じたけど、単に人見知りだったみたい」

「そうなんだあ、いきなり小学生の女の子のママなんて大変だと思うけど……美弥は信二さんにぞっこんなわけだし、結婚できるならば良かったよね」

昔から何事にもおおらかな絵美が、まずはおめでとう! と手をたたいてくれた。第2子妊娠中で、つわりが終わったらしく、すでに運ばれてきたパンケーキに気を取られている。

「小学生女子、あなどっちゃだめよ、思ったよりずっと大人なんだから。いきなりお母さんになろうとするよりは、適切な距離を取ったほうがお互いのためかもね」

はやくに結婚して、すでに娘が中1の美紀が、何か言いたげにこちらを見る。慎重で堅実な美紀のアドバイスは、いつもならありがたいけれど今日は求めていない。彼女たちがその昔結婚報告をしてきたとき、あんなにはしゃいであげたのを忘れたのか。こういうのは順番の様式美じゃないの。

この数年間、結婚は難しいと匂わせていた彼氏が、ようやくプロポーズしてくれたのだ。

さっと入籍してしまおう。そうすればちょっと出遅れたけれど、「みんな」に追いつく。しかも信二さんの事業は絶好調、新居は超都心のマンションに決まっていた。

「二人には心配かけたけど……なんとか収まるべきところに収まれそう。本当にありがとう! 結婚パーティも予定しているから、絶対きてね」

私はパンケーキのお皿を絵美から取り上げて、インスタにあげるための写真をパチリと撮った。