完璧な彼の、唯一の違和感


恵那さんと元婚約者のタケルさん(仮名)は、グルメな人たちが集まる食事会で出会いました。

予約困難な焼肉店の貸切会で、食べることが大好きな恵那さんは当初からタケルさんと意気投合。2次会も数人で会員制のバーで遅くまで飲んだあと、お互いに家が近いことが判明し、2人きりで帰宅したことが始まりでした。

「第一印象は、カッコよくておしゃれな人という感じでした。グルメの話でも盛り上がったし、共通の知人もたくさんいたので親近感もあり、普段あまり飲まないお酒も進みました。また2人きりになると、実はお互いに読書が趣味なことが判明して。ちょっとマイナーな海外の小説の話で盛り上がり、カッコいいだけじゃなくて教養も深いんだ……と感心したんです。

話す内容も薄っぺらさはなく深みが感じられて、会話をあんなに楽しめる男性は出会ったことがないと思いました」

出会いの初日から、2人は二次会で帰宅するつもりが、3次会は近くの公園で缶ビールを買って好きな本について深夜まで語り合う……という時間を過ごしたそうです。

「何というか、すごく“エモい”時間でキュンキュンきちゃったんです。まさか、小説についてあんなに語り合える人がいるなんて。あの情景描写がよかったとか、伏線の回収だとか、結末についての見解の意見交換するのが面白くて。普通におしゃれなレストランでデートをして口説かれるのとは全然違う刺さり方でした」

 

2人は何度かデートを重ね、自然と交際が始まりました。タケルさんとは会話を楽しめるだけではなく、冒頭で述べたようにまさに「ビューネ君」に近い存在で、恵那さんを常にお姫様扱いし、他愛のない愚痴などもしっかり受け止めてくれ、癒されたと言います。

恋愛でありがちな不安も皆無。例えばLINEの返信が長時間ない、デートのタイミングが合わないということも一切なし。またタケルさんは恵那さん以外の人にも穏やかで誠実な男性という印象を与えていました。
 

 


「あえて言うなら、一つだけ小さな違和感がありました。デートがいつも割り勘だったことです。でも同い年のサラリーマンの彼と比べると、正直私の方が全然収入があるので……。家が近いとはいえ、私の家のほうが家賃が高いのも明らかだったので、さほど気にせずにいました。

それよりも、家飲みやチェーンの居酒屋でも話が尽きなかったり、お弁当を作って公園でピクニックデートをできることがやっぱり私にとっては“エモかった”し新鮮で。高校生みたいなピュアな恋愛にすっかりハマっていたんです」

2人は特に障害もなく、1年ほど交際を続けました。頻繁にお互いの家を行き来し、友人や職場の人を交えて食事や遊びに行くこともあったと言います。

「自然と結婚の話も出るようになり、じゃあ再来月の私の誕生日にプロポーズをして、すぐに入籍して一緒に住もうと決めて。ただただ幸せでした。これまで仕事が多忙で異性との出会いもほとんどなかったのに、こんなにいい人と出会えたなんて……と。

それに彼に会った友人全員が、恵那は本当にいい人を見つけたねと祝福してくれました。深夜まで仕事をしてクタクタになっても、彼に会えると思うと頑張れて……結婚して二人一緒の生活が日常になるのを夢みたいに思っていました」

ここまでのお話で、恵那さんがどれだけ幸せな時間を過ごし、彼を信頼していたかはお分かりいただけたと思います。

「いつも割り勘」という違和感はありつつも、経済力のある恵那さんにとっては些細なこと。それ以外に不満や不安は一切なく、全面的にタケルさんを信頼し、愛を育んでいた様子が伝わります。このとき対面はしていないまでも、恵那さんはご両親にもタケルさんのことを報告済みだったそうです。

しかしいよいよ恵那さんの誕生日のプロポーズ直前、突如不穏なDMが恵那さんのインスタグラムに届いたのです。