「◯歳になんて見えない。若い!」「若見えファッション」……表面的な美しさとどう付き合っていく?


松本:最近、日本語もすごくいいなと改めて思います。日本語は話しながら、結論を変えられる文法で。だから逆に、私の友人は「会議中に、話し出して結論を途中で変える人がいる」と憤慨していたかな。「顔色を見ながら、どんどん変えていくなんて困る。結論を先に言ってよ」って。

最果:私は日本語の曖昧さを許してくれるところがすごく好きなんです。主語を省力してもよかったり、言い切らない表現が当たり前にたくさんあったり。言葉にすることですぱっと断定しかねないものに対してぎりぎりまで猶予を与えている言葉のように思います。

松本:美容のお仕事をしていると、「◯歳なのにまるで見えない。若い!」みたいな言い方をつい使いがちなんです。表面的な美しさや言葉とどう付き合っていくか、私の中で今すごく大きなテーマで……。見た目とか表面的な美しさについてどう思いますか?

最果:昔は似合う、似合わないを考えすぎるのが嫌で、純粋に好きな服を着たい! と思っていました。でも今は、着る人がいて初めて完成するのがファッションだから、似合うかどうかもそうだし、そしてそれだけでなくて、自分がその服を着た自分を好きかどうかがすごく大事になったように思います。「自分が隣にいたら、この自分にOK出すな」って思えたらそれだけでなんか気分がいいから、そうなるように服は選んでいます。

松本:自分がOKを出すっていうのを忘れるから、苦しいのかな。最近、私は、「今日の自分に何を着せよう?」って考えています。そう思うと結構楽しくて。「今日はお疲れ顔だな」というのを少し視点を変えられたら面白いかな。

最果:そう思います! 今日は部屋に何の花を飾ろうかなと思うのと一緒かな。

松本:「今日の自分に何を着せよう」って考えていると、シワにも優しくなれる。ってまた、良いことの側面を見つける筋肉が働いているなぁ。

最果:洋服選びは、今が一番楽しいです。10代の頃は、「その格好ちょっとおかしくない?」と言われたら、そうかも……と思ったりして、すぐ自信をなくしました。でもあまり今は他人にどう思われるかとかは考えてなくて、服は自分が迫力を出せば着こなせるもの、って思うようになりました(笑)。

 


最果 タヒ
1986年生まれ。詩人。2006年、現代詩手帖賞受賞。2007年、第一詩集『グッドモーニング』を刊行し、中原中也賞を受賞。映画化、個展、作詞、街とのコラボレーションなど、ジャンルを超えて活躍。最新詩集に『落雷はすべてキス』小説作品に『星か獣になる季節』、エッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』、絵本に『ここは』(及川賢治/絵)、翻訳作品に『わたしの全てのわたしたち』(サラ・クロッサン/著、金原瑞人との共訳)等がある。

松本知登世
ビューティエディター、ライター。1964年鳥取県生まれ。 大学卒業後、航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。 その後、講談社「Grazia」編集部専属エディターなどを経てフリーランスに。美容や人物インタビューを中心に活動。近著『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』( 講談社)ほか、著書多数。

 

美しいと感じられるのは、その人の中に既に美しさがあるから。世界は今日のあなたの心を移す鏡【詩人・最果タヒ×松本千登世】_img0

『顔は言葉でできている!』
松本千登世 著 ¥1540 KODANSHA

顔立ち:顔の形や作り、目鼻立ち/顔つき:気持ちを表す顔の様子、表情。
「時間を重ねるごとに、気持ちが顔の形になり、作りになり、目鼻立ちになり、持って生まれた顔が変化していく…。だから逆に意志の力で顔は作ることができる」という著者。
美容のプロである著者の気持ちを瞬時に変えたひと言を、イマジネーションを刺激する写真を添えて、ストーリーとともに綴っています。何気なく話す言葉、聞く言葉、かけられる言葉、目にする言葉の中に、あなた自身の顔つきを育てる「宝物」を発見できるようになる1冊です。


 
画像制作/森京子
文/藤本容子
 

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