互いの心をケアできる場所があるから、女性たちは強い
 

そして、その輪が誰かを救う。梅子は言いました。「みなさんが私を好きになってくれたから。妻としても母としても何も誇れない、誰からも愛されない、こんな嫌な女の私を」と。家の中で息を吸うことさえままならなかった梅子が、寅子たちと一緒にいるときだけは、誰の目も気にせず、何にも怯えず、笑うことができた。

きっと夫や長男から見れば、級友同士のつながりなんて取るに足らない戯れにしか見えないでしょう。「女同士が傷を舐め合って」と見下しているかもしれません。でも、そうやってお互いの心をケアできる場所があることが、どれほど人の支えになるか。一人ひとりの力は確かに微弱かもしれない。でも、支え合えるから女性は強い。

『虎に翼』自分の弱さや劣等感を、弱い相手への攻撃でしか吐き出せない男たち。女性と同じように男性も救う力が、このドラマにはある【第3•4週レビュー】_img0
©︎NHK

他方、男性が自分の中にある弱さや劣等感を、自分より弱い相手に対する攻撃でしか表出できないのは、男同士がお互いにケアすることができないからだという指摘の声が近年あがっています。ならば、寅子たちのように弱音を吐き合えた方が、男性だってもっと生きやすくなるのかもしれない。解決のヒントというのは、往々にして自分たちが取るに足らないと軽視していたものにあるのです。

男女の分断を招くなんて批判の声も出ている『虎に翼』ですが、まったくもってそんなことはありません。女性と同じように、男性も救う力が、このドラマにはあります。

その兆候をはっきりと感じたのが、第4週から本格的に登場した花岡(岩田剛典)でしょう。本科に進学した寅子たちの前に現れたこの新たな同級生は、一見すると人当たりもよく、紳士的。でも、それは寅子たちが優秀な学生だから「特別扱い」しているだけで、心の中には女性蔑視が巣食っている。しかもそのミソジニーは男性社会で自分を大きく見せるため、男たちから舐められないようにするための手段で。優秀な寅子たちへの尊敬の念。彼女たちに自分の将来を脅かされる不安や嫉妬。様々な感情が花岡の中で混在していることが炙り出されました。

『虎に翼』自分の弱さや劣等感を、弱い相手への攻撃でしか吐き出せない男たち。女性と同じように男性も救う力が、このドラマにはある【第3•4週レビュー】_img1
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きっとこの世の中に溢れる「女のくせに」や「所詮女なんて」という男性の言葉にも、花岡に近い感情が渦巻いているでしょう。でも、そんなものは早く手放してしまった方が自分自身も楽になれるはず。『虎に翼』にフェミニズムの思想が通底していることは明白です。フェミニズムとは女性の生きづらさを解消するための運動ではありますが、同時に男性も解放するものだということが『虎に翼』を見ていると感じます。

ですから、女性はもちろん、ぜひ身近な男性にも『虎に翼』を勧めてみてください。男と女はわかり合えない、がこの世の中の決まり文句。確かに身体的に異なる男女ではわかり合えないものもあると思います。でも、きっと分かち合えるものもあるはず。そんな希望を、『虎に翼』に託したくなるのです。
 

 

NHK 連続テレビ小説『虎に翼』
出演:伊藤沙莉
石田ゆり子 岡部たかし 仲野太賀 森田望智 上川周作
土居志央梨 桜井ユキ 平岩 紙 ハ・ヨンス 岩田剛典 戸塚純貴
松山ケンイチ 小林 薫
作:吉田恵里香
音楽:森優太
主題歌「さよーならまたいつか!」米津玄師
語り:尾野真千子

【放送予定】
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
※NHK+で1週間見逃し配信あり
 

文/横川良明
構成/山崎 恵
 

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