座右の書の古典をチーム作りのヒントに


————相反するものを両立させながら、正しい方向に進んでいく。その姿勢は栗山さんのバイブルだと公言している『論語と算盤』(著・渋沢栄一)の影響もありますか?

栗山:そうですね。プロ野球はチームが最下位になっても、自分の成績が上がれば給料が倍増するような、わけの分からない世界です。私欲を捨てて組織に尽くすことは簡単ではありませんが、その結果として利益が生まれるような道を僕らは進まなければならない。そういう考えに至るきっかけを与えてくれたのが『論語と算盤』でした。これまで何回も読み返したのですが、その度に新しい発見があるんですよ。間違いなく、僕に取っては座右の書ですね。

————日本ハムで監督を務めていた頃は『論語と算盤』を選手たちにも配っていたそうですね。

栗山:全員に配りました。新人選手には内容が難しいので、途中からはもう少し読みやすい人生論を説いた本を配りましたけど。選手が取材で座右の書を聞かれた際に、何も答えられないような状況は避けてあげたかったんですよね。

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————栗山さんは著書の中でも古典の言葉を引用されることが多い印象です。若者の価値観を説くような新しい本を手に取る人も多いと思いますが、温故知新を重んじる理由を教えてください。

栗山:やっぱり何世代も読み継がれてきた本には歴史に淘汰されない普遍的な価値がありますよね。ただ、世代間で価値観や感性は違うし、若い世代とコミュニケーションして彼らの考え方を知ることも大事だと思っているので、ジェネレーションギャップを埋めるための勉強もしているつもりです。一方で、あまりにも時代に迎合してしまうと、その人の良さがが消えてしまうので。だから自分の信念や本質的な部分は大事にしたいと思っています。

 

選手のド正面に入って、「監督、近っ!」と驚かれることも


栗山:そもそも、僕はたまたまWBCで勝ったことで“ちゃんとしている”ように見られがちですが、そんなことないんですよ。自分なりの表現で若い子たちと接して、ぶつかることもありますから。相手の気持ちを考慮せずに「俺はお前のことを愛している」とか言っちゃうし。ひたすら押し込んでいくだけで、それが嫌だったら離れていくかもしれない。でも、離れたとしても僕が大きく態度を変えることはないし。そんなスタンスで接しています。

————「昭和臭い」とか「暑苦しい」とか思われることを恐れて若手と距離を置いている人もいると思いますが、やっぱり栗山さんは熱量の次元が違いますね。

栗山:日本代表の合宿でも、選手のド正面に入って話しかけていましたからね。無意識でやっていたことですけど、面識のなかった選手から「監督、近っ!」って驚かれたこともあります。もちろん、僕だって相手が嫌そうにしていたら距離感を調節しますよ(笑)。それでも、挨拶だけは大きな声でします。ド正面から挨拶されて無視するヤツはあんまりいないですからね。そうやって年上の人たちが挨拶負けしなければ、組織がおかしなことになるとは思いません。
(インタビュー後編は5月10日公開)

インタビュー・文/浅原 聡
栗山さん撮影/杉山和行(講談社写真映像部)
 

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