こんなに色気を出し続けてもなぜ枯渇しないのか。それは柄本さんの色気は、俺魅力あるでしょ的な発散タイプではなく、相手を思う気持ちから滲みでるものだからに違いありません。

基本、相手に合わせ上手なんじゃないか説は、以前も書きました(柄本佑の愛情表現には紳士的な優しさがある。自分の魅力を見せつけるようなナルシスティックでマッチョな感じが微塵もない。かといって、愛玩動物的な受け身感でもなく、攻守のバランス感覚が抜群にいい)。色気とは与えるものではなく、他者を受け入れること、なのだと思わせる俳優が柄本佑なのです。それは女性だけでなく、男性にも発揮されます。

 


『光る君へ』第18回で、疫病に罹った道兼が「入って来るな」と言うのも聞かず、道長は御簾をくぐって入り、一度は出たものの、すぐまた戻って道兼を抱きしめるのです。その前にも、誰もに見捨てられやさぐれた道兼に、死んで幸せを求めるのではなく、現世で幸せになってほしいと言い、それを聞いた道兼は、悪いことばかりしてきた心を入れ替えました。

戻ってきて抱きしめるアクションは台本にはなく、リハーサルのときに柄本さんが提案したそうです。それによって玉置玲央さんは道兼として、とても嬉しく思ったと、筆者が参加したNHKの取材会で語っていました。(死の直前、藤原道兼は「幸せだったのではないか」大役演じた玉置玲央の脳裏に浮かんだある風景「光る君へ」


柄本さんがアイデアを出した、道兼を最後まで見捨てないアクションは、そのあとまひろが、自分の母を殺した道兼をゆるし、罪が消えることを祈る場面とも呼応します。道長がまひろの心を実現しようと努力している人だということを柄本さんは確実に理解して的確に演じているのだと感じます。まひろ幸せ者。