猫と一緒に暮らす人にとっては、家族のように大事にしている猫と1日でも長く暮らせるのは幸せなことです。その一方で、猫も飼い主も年齢を重ねていくことになります。

それでも、猫とともに暮らしてきた時間はかけがえのないものですし、シニアになった猫だからこそ、愛着もひとしおです。そこでミモレでは、シニア猫(ここでは10歳以上と定義)と暮らす人たちのお話に耳を傾けてみようと思っています。

今回登場するのは、北海道に暮らす、推定17歳のにがりちゃんと、たくさんの保護猫たちとの暮らしをインスタグラムで発信しているSNARE COVER(スネアカバー)さん。9年前にスネアさん一家に保護されたにがりちゃんはとても凶暴で、本気の猫パンチを人に喰らわすのは日常のこと。スネアさんは、あまりのシャーシャー猫っぷりに、「#にがりちゃんが心を開くまでの道」というハッシュタグをつけて、にがりちゃんの姿を投稿しはじめます。

人が近づくと警戒心全開になり、パンチや噛みつきが当たり前の状態が9年間続いていたのですが、今年になってなぜかにがりちゃんは、スネアさんが頭を撫でると気持ちよさそうな顔を見せ、抱っこをしても大人しくなったのです。にがりちゃんがようやく心を開いてくれるようになった理由とは?

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推定17歳のにがりちゃん。美味しいものを嗅ぎつけた時は人間に近寄るけど、すぐに逃げられる距離をキープ(写真:スネアさん、以下同)

<飼い主プロフィール> 
SNARE COVER(スネアカバー)さん(40代)
札幌在住のミュージシャン、ソングライター。10代のころから3ピースのバンドで「スネアカバー」として活動し、昨年7月にVictorカラフルレコーズからメジャーデビュー。2013年に路上でカラスに襲われ、瀕死の状態だった子猫(わさびちゃん)を保護し、87日後にこの世を去るまで懸命に看病。この時の経験から猫の保護活動に携わるようになり、今も多くの猫たちと暮らす。

 

<同居猫プロフィール> 
にがりちゃん(推定17歳)
キジ白のメス猫。北海道で約7年間、野良猫として生活。その間、何度も出産経験あり。2014年にスネアさん一家に保護され、家猫になる。警戒心が強くて人になかなか近づかない一方で、猫に対しては面倒見がよく、他の猫たちとも仲良くできる。健康状態は問題がなかったものの、最近は年齢のせいか体調を崩すように。スネアさん宅で暮らすようになって9年間、シャーシャー猫を貫いていたが、最近、急に人を受け入れるように。

〈歴代猫(代表)プロフィール〉
わさびちゃん(生後約3ヶ月没)
キジトラのメス猫。2013年にスネアさん宅の近くの路上で、カラスに襲われているところを保護される。瀕死の重体だったが一命をとりとめる。スネアさん一家の懸命な看病もあって順調だったものの、てんかんと思われる発作に見舞われ、虹の橋を渡る。日々の様子を知らせるツイッター(当時、現X)アカウントが注目を集め、その後、『ありがとう! わさびちゃん』という本が出版された。

 
 


もともと動物好きで、結婚してからゴールデンレトリーバーのぽんずちゃんを飼い始めました。妻と娘、ぽんずちゃんと暮らしていた2013年のある日、瀕死だった子猫を保護します。これがわさびちゃんでした。一時は命も危ぶまれましたが、なんとか持ち直してくれました。でも、突然の発作が起きてしまい、わずか3ヶ月で短い生涯を閉じてしまいました。

この出来事がきっかけで野良猫たちの厳しい現状を知り、見て見ぬふりができなくなりました。わさびちゃんが残してくれたものを、猫たちに還元したいという思いもあって保護活動に携わるようになったのです。

にがりちゃんも、そんな活動で出会った野良猫の一匹でした。近所の人からの「心配だから保護してほしい」という声があって、にがりちゃんのところに行ったのですが、とにかく警戒心の強い猫。餌場となる家を数か所キープして、食いつないでいたようです。近所の人への聞き込みによると、何回か出産経験があり、6歳以上だろうということでした。真冬に姿が見えなくなり、春に庭先にできた雪山が少し溶けて、穴ができたところに再び姿を現した時にはガリガリにやせ細っていたこともあったようです。この地域では、冬はマイナス10度になることもありました。

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保護直後のにがりちゃん。やせてガリガリな姿

これ以上、外の厳しい環境に置いておくわけにはいかないと保護を決めたのですが、実際に保護するまで半年もかかってしまいました。家に連れてきても、とにかく凶暴! ケージを倒すは、本気の猫パンチをしてくるは、ガブリとかみつくは、で本当に大変でした。年齢は推定6歳以上だし、全く人馴れしていないので、里親を見つけるのは早々にあきらめ、うちの子になったのです。

でも、そのシャーシャー猫ぶりが逆に面白くなってきて、インスタグラムに「#にがりちゃんが心を開くまでの道」というハッシュタグをつけて投稿するようになりました。実はアップしたものは比較的マシな写真や動画で、暴れすぎてお見せできないようなものもありました。でも、フォロワーさんも、にがりちゃんがどう変化していくかが気になるようで、たくさんのコメントがつく“人気コンテンツ”になっていきました。

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「#にがりちゃんが心を開くまでの道」というハッシュタグをつけてインスタグラムに投稿した写真

にがりちゃんは小柄で細くて、見た目はとてもおしとやか。どこにあんな凶暴なパワーが潜んでいるかわからないほどです。うちにはにがりちゃんのほかにも何匹もの保護猫がいたのですが、猫同士だととてもいい子。面倒見がよくて子猫の世話をしてくれましたし、成猫同士でも仲良くしていました。

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猫同士には優しく、自分の子どもじゃないのに迷うことなく育ての母になることもあるにがりちゃん(写真左上)

人に対する警戒心が強いので、トイレをしている時は近づかず、ごはんをあげる時も、そっと置いて遠くから見守るようにしていました。とても行儀がいいのですが、それは野良猫時代に培った、生き抜くための術のような気がするのです。保護活動をしていると、にがりちゃんのように行儀のいい子は少なくありません。そんな姿を見ていると、逆に切ない気持ちになります。

 
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