「義母の気持ちはわかるようなきがしたので、とても嫌だったけれど急には変わらないだろうなとあきらめる気持ちがありました。でも、夫がそれを知っていても何もしてくれないことが信じられなくて……。私、なんのために頑張ってここにいるんだろう? という疑問が湧いてきてしまいました。

「お父さんのご飯は1日2回で充分」笑顔を浮かべる義母の正体が明らかになった雪の降る夜_img0
 

26歳で結婚して、すぐに育児が始まり、結婚生活は義両親のこともあっててんてこまい。その間、夫は暴力や浮気のような致命的な裏切りはなかったけれど、ひとりで登山ばかり。夫婦の絆を感じることはなかったな。それがじわじわときいてきて。配偶者の無関心って、本当に堪えるってことがわかりました」

茉優さんはうつむいて、この日初めて目を潤ませました。伺っている筆者も、無理からぬことだと感じました。茉優さんの身に起こった義両親との軋轢は、世の中にはたくさんある話かもしれません。しかし、その試練のダメージは、配偶者の振る舞いによって非常に大きくなりえるのです。

 

2時間近くになる取材中も、夫の英輔さんの話は驚くほど少なく、夫婦の関係性のお話を伺っているとは思えないほど。しかしそれこそが、茉優さんと英輔さんの問題だったように感じました。

「それで離婚が頭をよぎりましたか?」と率直に尋ねてみると、意外なことに少し考えたあと、茉優さんは首を振りました。

「英輔さんは子どもたちのお父さんです。そんなに簡単に別れられません。とはいえ、まだこの先も絶対別れない、とも思えない。ただこの前、嬉しかったことがありました。義母が珍しくみんなで要予約の鰻を食べにいこうって言ったんですが、行ってみると予約は大人2名子ども3名。私の席はなかったんです。地味でしょうもないいつもの嫌がらせです。そうしたら、夫がじゃあ俺と茉優は隣のラーメン食うわ、ってすたすたとお店から出ていって。

ラーメンが食べたかっただけかもしれないし、ささいなことなんですけれど。でもそんなことは初めてでしたし、私はその時すごく嬉しかった。あ、まだ夫婦として試行錯誤していけると思いました」

他人がきくと、それでこれまでの苦労が帳消しにはならないのでは、と思うようなことでした。義母の嫌がらせはまだあるというのですからなおさらです。

でも夫婦のわだかまりとは、日常のささいなことから始まり、いつの間にか大きくなっていく。そして日常のちょっとしたことで好転する可能性もあるのかもしれないと希望を感じました。その変化の兆しをキャッチできる茉優さんの心根の明るさ、素直さが素敵だとも。

茉優さんと英輔さんの関係性が、これから少しずつ良くなることを祈らずにはいられません。


写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
 

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