政府が下請法の強化に乗り出しています。これまで下請法の対象外であった、荷主と運送事業者の取引についても同法を適用できるようにするほか、下請け事業者に対して価格の据え置きを要請することだけでも、実質的な買い叩きと認定するなど、かなり踏み込んだものとなっています。

発注者にとっては厳しいかもしれませんが、物価上昇が続く現状を考えると妥当な判断といえるでしょう。あらゆる業界において、同じ価格での外注継続を当然視する事業者は少なくありませんが、こうした行為は場合によっては違法行為となりえます。外注を行っている事業者は、価格に関する意識を根本的に変えていく必要があるでしょう。

これまでの時代においても、独占禁止法や下請法など、弱い立場の事業者や個人を守る法律は存在していましたが、現実にはこれらの法律が積極的に行使されることはありませんでした。

政府が企業活動に介入することについては極力、控えていたことに加え、社会全体として企業の利益が優先されていたこともあり、多少、強引なやり方であっても、ある程度、お目こぼしされていたというのが現実と言って良いかもしれません。こうした弱者を無視したやり方でも、右肩上がりの成長が実現していた時代には何とかなったのですが、近年、日本でも本格的な物価上昇が始まったことで状況が大きく変わりました。

物価上昇が激しくなると、企業にとっては仕入れコストの増加につながるとともに、消費者の購買力も弱くなってしまうため、経済にとって逆風となります。こうした環境下では、外注先や下請けなどに対して過度な値引き要求を行ったり、買い叩きを行う企業が増えてくることになります。 

価格据え置きも“買い叩き”に?政府が下請法の要件強化、日本は古い商習慣を変えられるのか_img0
イラスト:Shutterstock

しかしながら、コストが上がっているときに、優位な立場にある企業が買い叩きなどの行為を行えば、社会全体として十分な利益を確保できず、かえって経済活動を縮小させてしまいます。インフレ経済下では、むしろ発注者に対する指導を厳しくし、コスト削減しかできない付加価値の低い企業には市場から退出してもらった方が経済成長に寄与することになります。
 

 


一連の変化を受けて、公正取引委員会は活動を強化しており、企業の不公正取引についてより厳しく指導するようになっています。最近の事例では、下請け企業に対して一定額の値引きを要求する行為が下請法違反にあたるとして、日産自動車に是正勧告が行われ、業界には衝撃が走りました。