これまで自動車業界をはじめとする製造業の世界では、常にコスト削減を行うのが当たり前という感覚であり、下請けに対して毎年一定額の値引きを要求し続けることは、当然の商習慣とされてきました。

しかしながら、こうした商習慣が成立するのは、右肩上がりで経済が伸びていた昭和の時代だけです。

経済規模が順調に拡大していれば、仮に値引き要求や価格の据え置きを行っても、生産量が増えるので利益の絶対額は増えていきます。しかし経済の伸びが鈍化している経済圏では、価格を据え置いても数量の伸びは期待できないため、値引きを要求された事業者の利益が一方的に減るという結果になりかねません。

価格据え置きも“買い叩き”に?政府が下請法の要件強化、日本は古い商習慣を変えられるのか_img0
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円安やそれに伴うコスト上昇が続く今の時代においては、こうした行為は下請け企業の経営を悪化させるだけでなく、そこで働く従業員の賃下げにも直結します。「今までの商習慣はもう通用しない」というのが政府からの強いメッセージといえるでしょう。 
 

 


政府の動きはそれだけにとどまりません。値引きまでは要求せず、同じ金額での発注を続けていたとしても、場合によっては下請法違反にあたるという形で同法の要件変更を検討しているからです。

今までの感覚では、同じ価格で発注しているのであれば、無理な要求をしているとの認識はなかったかもしれません。しかしながら、継続的に物価が上がっている社会においては、価格の据え置きは、事実上の値引き要求にほかなりません。これが過度に行われた場合には、買い叩きに相当するというのが新しい法律の解釈です。具体的には、コストの上昇が公表資料などで確認できるにもかかわらず、下請け代金を据え置いた場合には、買い叩きの要件に該当することになります。

自社の社員に対しては、年次昇給やベアで賃金を上げる一方、下請け企業や契約社員については同じ金額を継続するという行為は、新しい時代では「買い叩き」に相当するのです。この現実について、発注企業側は強く認識する必要がありそうです。

資本主義というのは、ただ好き勝手に経済活動を行わせ、強い者だけが利益を独占すればうまく回るというわけではありません。商品には相応の対価を払い、その中で適正な競争を行うことで、優秀な事業者が生き残るというのが資本主義の本来あるべき姿です。