「高齢者の定義を70歳に」提言が波紋。年金の開始年齢引き上げは否定も、現役世代はまったく安心できないワケ_img0
写真:Shutterstock

政府の会議において、高齢者の定義を今の65歳から延長する提言が出されたことが波紋を呼んでいます。このニュースを耳にした多くの人が、年金をもらえる年齢が遅くなるのではないかと心配しているのですが、果たしてどうなのでしょうか。

年齢を5年延ばす案が出てきたのは、政府が主催する経済財政諮問会議です。この会議において民間議員が提言したプランの中に高齢者の定義見直しが含まれていました。もっとも、提言の内容自体は、日本人の健康寿命が伸びているので、人生の後半をより充実して生きられるよう学び直しの機会が必要、という流れでしたから、直接、年金の支給開始年齢について議論されたわけではありません。

 

しかしながら、制度における高齢者の定義が変更されることになれば、当然、高齢者に対する各種政策に影響が出てくる可能性がありますから、多くの人が心配するのも当然といえるでしょう。立憲民主党の小沢一郎衆院議員はこのまま政府のやり方を放置していると「年金は80歳からなどと言い出しかねない」と強く批判していますし、ネットでもこの話題は広く拡散しました。一連の騒動を受けて武見敬三厚労相は、「年金の支給開始年齢の引き上げは考えていない」と火消しの発言を行っています。

あくまで現時点においての見立てですが、筆者は年金の支給開始年齢が引き上げられる可能性は今のところ低いと見ています。その理由は、政府は別の形で年金財政の安定化を図ろうとしているからです。

日本の公的年金は現役世代から徴収する保険料で高齢者の年金を支払う仕組みになっています(賦課方式)。このやり方には様々な面でメリットがある一方、現役世代の人口が減り、高齢者の人口が増えてしまうと年金財政が苦しくなるというデメリットもあります。

この状況を解決するには、現役世代からより多くの保険料を徴収するか、高齢者に支給する年金を減らすかのどちらかを選択するしかありません。現役世代の保険料はこれまでずっと上昇が続いてきましたから、現役世代の負担をこれ以上、増やすことは現実的に難しい状況です。このため政府は、高齢者の年金を減らすという方向性で財政の安定化を図っています。その具体的な施策は「マクロ経済スライド」と呼ばれるものです。

マクロ経済スライドは、簡単に言ってしまうと、毎年の年金支給額を少しずつ減らしていく仕組みです。

 
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