嘘をつく父親を目の当たりにした、息子の反応


結局、数分後に救急車が自宅マンションに到着。救急隊員の方達は担架を持って玄関口にやってきました。麻衣さんは気が動転してしまい、その様子を黙って見ているしかできなかったと言います

「夫は平然と『ついさっきまで苦しそうにぐったりしてたんですが、一過性だったんですかね。すみません』などと謝っていました。救急隊員の方たちは非常に優しくて、息子を一通り診療したあと『小さなお子さんの体調の急変はよくあることですから、今夜は安静にして、また何かあれば遠慮せず呼んでください』と仰っていましたが……。

私はもう、呆れるというか怖いというか、怒りなのか恥ずかしさなのか、いろんな感情が溢れて何もできなくて。結局この日は出かけることもできず、すると夫も平常に戻りました。ただ、もう彼とは一緒にはいられないかもしれないと絶望を感じていました。息子も私と同じく、平気な顔で嘘をついている父親に戸惑い、怯えたように口を閉ざしていたのも悲しくて……

妻の外出を阻止すべく“救急車”を呼んだ夫。度を越した束縛に、離婚を考えた妻の意外な選択_img0
 

麻衣さんはこの時から離婚を考えるようになりましたが、やはり簡単に決断できることでもありません。息子から父親を奪うことや経済的な不安はもちろんですが、何より、束縛の背景にあるのは夫の愛情だと信じたい気持ちもあったそうです。

「さんざん悩んだ末、束縛が度を超していること、救急車や位置情報、メールのことなどを紙に書き出し、意を決して夫に話をしました。あなたは何度も異常な行動をしている、息子もあなたの行動に戸惑っていて、育児に影響が出ると思っていること、そして離婚を考えずにいられないことなど……。

夫はしばらく黙って私の話を聞いていましたが、怖くて彼の顔を見られないし、身体が震え、泣いてしまいそうになるのを何度も堪えました」
 

 


しかし少々意外なことに、夫は麻衣さんの話に逆上したり憤慨することはなかったようです。

「私の話に対して、彼の第一声は『何言ってるの? 僕はそんなことしてないよ』でした。本当に驚いてショックを受けたような顔でそう言ったんです。

でも、私も薄々わかっていました。夫の束縛行動はいつも本気で、彼なりの理由があって。なんというか、悪気とか意地悪さではなく、正義感のうえでの行動なんです」

そして驚くことに、夫は妻の「離婚」という言葉があまりにショックだったようで、青ざめた顔で涙を必死に堪えていたというのです。

「箇条書きにした束縛リストを夫に見せて説明しても、『麻衣ちゃんは誤解してる』『こんな風に見せられると違和感があるけど、全部家族のためだった』と、理不尽を突きつけられたような顔をしていました。そして、もう絶対私と息子の嫌がることはしないと、ひたすらすがるような感じで……」