親を見送った悲しみはなくならないけど、形は変わっていく
 

――自分をずっと見守ってくれたお母様がこの世界からいなくなった、ということを受け入れるのには時間がかかりましたか。

私は5年くらいかかりました。最初のうちは、母の引き出しを開けられなくて。一緒に住んでいたというのもあると思いますが、そこに母の温度が残っている気がして、開けることができませんでした。やっと整理ができたのは、本当につい最近のこと。それまでは無理でしたね。

――どうやって踏ん切りをつけたのでしょうか。

人に手伝ってもらいました。そういうときは、サッパリしている人と一緒にやるといいですよ。物を処分するにしても、母の着ていた服とか、人から見れば同じようなものだから、1枚だけ残して、残りは全部捨てちゃおうかってなる。娘の私から見れば1枚1枚に思い出があるから、「うわー!」と思うんだけど、つい人がいるとカッコつけて平気なふりをして捨てられたり(笑)。でもそうやって手放していくことで、区切りがついて前に進める。私一人じゃどうにもできなかったと思うから、手伝ってもらって感謝しています。

――人の助けを借りるというのは大事ですね。

一人だと駄目ですよ。写真とかずっと見ちゃう(笑)。人がいるだけで、少し気持ちが軽くなる。大切な人を送るときや、送ったあとこそ、一人にならないでほしい。心が癒えるまでの時間を一緒に優しく寄り添ってくれる人。遺品整理に付き合ってくれる人。自分だけで抱え込みすぎず、どうかいろんな人を頼ってほしいです。

――今もふっとお母様の存在を感じる瞬間はありますか。

もちろんもちろん! きっと生きていたら今こういうことを言うだろうなと感じることはよくあります。亡くなって3年ぐらいの間は、美味しいものを食べると、これを食べさせてあげたかったなとか、新しい観光スポットや商業施設ができるたびに連れて行ってあげたかったなと思うこともありました。

でも月日って親切で、どんな悲しみもいい思い出と一緒に沈下させてくれるんです。決してなくなるわけではなくて、日に日に形を変えていくといった方がいいのかな。少しずつ自分の中で母がいなくなったことを受け止められるようになりました。

――なくなるわけではなく、形が変わるというのは、なんだかしっくり来る気がします。

人生って、いい感じにできているんですね。最初のうちは悲しんで塞ぎ込んでいたけれど、月日が経ってくると、次はもう自分の世代だから、そんなこと言ってる場合じゃないと思うわけで。だって、親の世代を見送ったということは順番的に次は自分じゃない? だから一生の別れではあるんだけど、今はそれよりも「しばしの間、じゃっ!」みたいな感じです。ちょっとの間離れるけど、そのうち私もそっちに行きますので。そんな気持ちで、母のいない人生を生きています。

真矢ミキ「親子の関係は親の老いと共にひっくり返るところがある」ひとりの娘として思うこと_img0

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『九十歳。何がめでたい』


6月21日(金) 全国公開

出演:草笛光子 唐沢寿明 藤間爽子 木村多江 真矢ミキ
原作:佐藤愛子「九十歳。何がめでたい」「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」(小学館刊)
監督:前田哲
脚本:大島里美
配給:松竹©︎2024 映画 「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©︎佐藤愛子/小学館


撮影/塚田亮平
スタイリング/佐々木敦子
ヘアメイク/平笑美子
取材・文/横川良明
構成/山崎恵
 

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