常に嘘をついて生きているようで、後ろめたいような。本当に変な職業だと思います
市原:撮影現場は”祭り”みたいなもの。僕はそういう場所で育ってきましたし、今回もすごく素敵な現場、すごくいいチームです。撮影の方も以前から存じ上げていたし、監督も台本にない行間の部分の芝居をたくさん作ってくださる方で、本当に信頼できる方ばかりです。ですが、そういう活気のあふれる現場で、僕が演じる役だけが完全に覇気がない(笑)。現場でどのようにいればいいのか、正直言えば、現場での自分の「居方」がすごく気持ちが悪いんです。常に自分にブレーキをかけているような暗い役のためにそういう心情を作らなければいけない。少しでも役に近づきたい、その心情を知りたいというのが役者の性(さが)だと思いますが、今回は本当に常に迷いと苦悩の中にいて、撮影以外でもとぼとぼ歩いてしまったり、声が出しにくくなったりしました。結局のところ役者は何をやっても虚像、常に嘘をついて生きているようで、後ろめたいような気持ちもあります。本当に変な職業だと思います。
このインタビューを行ったのは、ドラマ撮影の真っ只中。「笑顔で話すことができるのは現場から離れているから。現場でカメラの前に立つと、どうしようもない孤独感に襲われる」と市原さん。その役への没入から、役に私生活が侵食されることも多いようですが、特に今回は「役から抜けられなくなりそうで怖いですよ」と呟きます。
市原:僕は何も考えない時間も欲しい人間なんです。だから役者という仕事を忘れすべての概念を0(ゼロ)にする、予定を全くたてず、何も考えずにいる時間を過ごすことが一番のご褒美。バイクで走ったり、料理を作ってみたり、好きなことをして、ボーっとする。そういう時間こそが最高の贅沢です。後々に振り返って「あの時間は充実していたな、いい時間だったな」と思うことはあっても、その場では作品や現場を年々楽しめなくなっています(笑)。でもそれは自分にとってはいいことなんです。それだけ役者という職業に本気になっている、何かを生み出そうとする思い、役者としての本質である「お客様に楽しんでいただきたい」という思いが大きくなっているということなので。作品を見てくださった方々から頂いたお手紙に、「余命数ヵ月なんですけど、病室で笑顔になれるんです」とか「作品をきっかけに、家族の会話が増えました」とか「生きる力を失っていましたが、あの作品に救われました」と書いていただいていて、それを読むと、「失礼な向き合い方をしてはいけない、もっと真摯に取り組まなければ」という思いに駆られます。恥ずかしい思いをしようが、他人にどう思われようが、目の前の作品にもっとしがみつき、求められる自分を全部出しつくしたいです。
<INFORMATION>
「WOWOW×テレビ東京 共同製作連続ドラマ
ダブルチート 偽りの警官 Season2」
WOWOWプライム、WOWOWオンデマンド2024年6月29日(土)スタート 毎週土曜22:00~ 放送・配信
詐欺師たちの世界を舞台にした、
スリリングな本格クライムサスペンス第2シーズン!
WOWOW×テレビ東京の初タッグ作品。詐欺師たちの世界を舞台にした、スリリングな本格クライムサスペンスSeason2がいよいよ放送・配信スタート!
Season1では、向井理演じる警察官・多家良啓介(たからけいすけ)が、“詐欺師K”として悪人を華麗に欺いたが、Season2では主人公が交代。新たに主演を務める市原隼人が、巨大詐欺組織を喰らう詐欺師・田胡悠人(たごゆうと)役を演じる。かつて海外拠点の特殊詐欺で逮捕された経験を持つ田胡は、出所後に詐欺会社ライドクリーンに入り込み、圧倒的な詐欺の知識とセンスを武器に成り上がっていくが……。さらにSeason2より、謎のサロンを主宰する詐欺師・海藤周役の陣内孝則、ライドクリーン代表・木崎竜一役の淵上泰史に加え、升毅、羽場裕一、岩松了ら実力派俳優陣が登場。また、Season1から引き続き、内田理央、荒川良々、結木滉星、橋本じゅん、伊藤淳史、そして向井理が出演する。
生粋の詐欺師・田胡の危険なマネーゲームに、多家良の物語がどのように交差するのか。緻密でいてダイナミックに展開する“オリジナルストーリー”の行方に注目!!
ヘア&メイク/大森裕行 (VANITES)
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩
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