家族ぐるみ
「お、お父さん? え? お父さんだけ集まってゴルフをするの?」
クラスの保護者をつなぐSNSのメッセージを見て、私は思わず声を上げた。
役員のお母さまから、大々的な告知がきて仰天。来月の土曜、名門ゴルフクラブで父親だけの懇親会があるという。普段は敷居の高いそのクラブに、大昔から強いつながりのある父兄が大勢いるから実現したのだとわざわざ書いてある。
そのあとに続くメッセージを見ると、この交流会はあの学校の卒業生でもあるお母様にはおなじみのことのようで、どうせ泊まってくるので家族で近隣のホテルを取るのがよろしかろうとこれまた有名ホテルのリンクが貼ってある。
私はおおいに困惑した。
まず第1に、うちの夫はゴルフができない。打ちっぱなしくらいはいったことがあるようだったが、下手すぎてあきれられたと聞いたことがある。
第2に、ゴルフと懇親会の参加費は5万円と書いてある。5万円? 子どもにかかるならまだしも、たかが保護者の集まりに、1カ月の食費並みのお金はかけられない。月のふたりのお小遣いを足してもそのくらいだ。家族でこのリンクにあるホテルに土曜の夜に泊まったら、下手したらさらに倍ほどもかかるかもしれない。
第3に、家族ぐるみで同じホテルに泊まったら、翌日はどうしたって子どもは一緒に行動したがるだろう。まさかこの立地、電車でいくとも思えない。我が家はこのマンションに引っ越してくるとき、車は売った。駅近マンションだし、駐車場代が4万5千円じゃ、マンションの管理費をいれたらとんでもないランニングコストになるから。車を借りるしかないだろうが、それはきっと今回限りではなさそうな気がした。どこに遊びに行っても、まだ低学年の子どもは送り届けなければならない。
「どうしよう……でも梨々花のためだから、初回は頑張らないとダメだよね……長いおつきあいだもの」
私は動揺しながら、メッセージを夫に転送したあと、「参加」にして役員さんに返信する。
したあとで、なんだか取返しのつかないことをしたような気がして、しんとしたリビングをぐるりと見回した。
次回予告
【後編】初めての夏休み。母が仰天した「私立名門小学校」の過ごし方とは?
イラスト/Semo
編集/山本理沙
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