光野さんからファッションだけでなく、40代からの人生の乗り越え方など精神的な部分での深いアドバイスをたくさんいただけた前回のインタビュー。今回は「おしゃれが分からなくなった時どうしたらよいのか」ということについて、具体的なヒントを伺いました。勇気づけられるお話は必読です。

光野桃(みつの・もも) 作家・エッセイスト 東京生まれ。小池一子氏に師事した後、女性誌編集者を経て、イタリア・ミラノに在住。帰国後、文筆活動を始める。1994年のデビュー作、『おしゃれの視線』がベストセラーに。 主な著書に『おしゃれのベーシック』(文春文庫)、『実りの庭』(文藝春秋)、『感じるからだ』(だいわ文庫)『あなたは欠けた月ではない』(文化出版局)『森へ行く日』(山と渓谷社)『おしゃれの幸福論』(KADOKAWA)など。また、還暦を記念して2月26日に上梓した新著『自由を着る』(KADOKAWA)が話題に。2008年より、五感をひらく時空間をテーマにしたイベント『桃の庭』を主宰。公式サイト 桃の庭FacebookファンサイトInstagram

 

おしゃれに困ったら
休むのが一番の策

 

40代、50代と嵐の中をくぐり抜けてきた今、素直に自分のことを好きだと思えるようになったという光野さん。「誰にどう見られたいかということが全くなくなったから、おしゃれが楽しくて仕方ない」とのこと。

大草:前回、桃さんにたくさんのアドバイスをいただいて、とても気分が楽になりました。今回はこれまでのお話に加えて、『おしゃれ更年期』に関する何か具体的な処方箋がありましたらお聞きしたいのですが。

光野:はい。私の読者には40代の方が一番多いんですけれど、毎回「昨日着ていた服が今日は似合わない」「体型がどんどん変わってくるなかで、この先どんな装いをしたらいいのか分からない」という深刻な悩みをいただくんですね。皆さん辛そうだなと思いながら、私自身にもそういうことは日常茶飯事に起こるので、笑ってばかりではいられない。自分を含めて読者の方々が今後どうしていけばよいのかを、ずっと真剣に考えてきました。
そうして出した現時点での結論といえば、先にも言いましたけれど、やはり本当に辛い時には一度おしゃれを休んでみるのが最善策だということ。1週間でも1か月でもいい、同じ服で過ごしてみるんです。もちろん似たようなバリエーションを揃えておいて、お洗濯はきちんとしてくださいね(笑)。そうしているうちにだんだん飽きがきて、急に「こんな服が着たい!」という衝動が湧いてきたら、しめたもの。それが扉の開くタイミングなんです。そういう時にこそ妥協をしないで、少しいいものを投入してみる。するとそこからパーッと視界が開けていって、またおしゃれをしようという気分になれるかもしれない。そんな『扉の開く時期』がきたら、ふと頭をよぎる新しい感覚の「芽生え」を見落とさずにキャッチして、しっかりとリアルに落とし込んでいったらいいのです。

大草:なるほど。でも、世間から取り残されそうで、なかなかおしゃれを休むことができないという方も多いようです。

光野:そうなのよね。でも、もし本当に世間から取り残されてしまったように思えたとしても、また違った価値観が芽生えるから、それは悪いことではなくチャンスでもあるんだということを知っておいてほしい。私の場合は、長い更年期の間に山や森などの自然の中で過ごす人たちとの出会いがあり、全く違う価値観を持つ人たちとの付き合いを持ったことによって視野が広がりました。これは、もし私がずっと都会でファッションとメディアの世界にだけいたら得られなかった財産。だから、どんな停滞期にいても、自分の再生力を信じていてほしい。そうすると、全然違う方向からトントンとノックの音が聞こえてきたりするのよ。そうして影の中にいても光が差し込んだ時にキャッチすれば、次の光の場所に出られるんです。人生もおしゃれも、蛇のように脱皮しながら前に進んでいくのみなのよね。

大草:人にはもとの自分に安住しようという性があるからつい後戻りしてしまおうとするけれど、価値観も服も脱皮していけばいいんですね。となると、どこかに自分の抜け殻が累々と積み重なっているのかしら(笑)。

ワードローブの中に
過去の抜け殻がある

 

光野:そう、それがまさにワードローブの中にあるのよ(笑)。先日、ワードローブから今の自分を知るという面白い体験をしたんです。新著が出版されるにあたり、トークショーを開いたときのこと。MCの方が、この本に掲載されている42点のアイテムをいくつかのグループに分類してみてはどうでしょうと提案してくださったんですね。たとえば、「癒されるもの」、「勇気を与えてくれるもの」、「ほっこりするもの」、「前に進むエネルギーになるもの」etc……。それで実際にグルーピングしてみたら、42点のほとんどが「前進するエネルギーを得るもの」に分類されたんですね。つまり、私は服にいま癒しを求めていないということが分かって。そんな風に、しばらくおしゃれを休んでいた人が、自分の特徴や求めているものを再確認するには、これまでの抜け殻、つまりワードローブを見直してみるというのも一つの手かもしれません。
ただ、おしゃれを休もうと言いながらも、80歳でペディキュアを塗るイタリアのマダムのように、いくつになっても女性であるということは意識していたいですね。

大草:はい、私もそう心がけたいと思います。というのも、40代になってから人の視線が明らかに減ってしまったような気がしていて。綺麗だとか素敵だとかいう以前に、生物としての女を認識するという視線さえ少なくなったなと(笑)。

光野:男、女、サル? 自分はどこに当てはまるんだろうというね。私も40代のときに視線がどんどん薄くなっていって、最後に消滅したときにはそんな風に思いましたよ(笑)。もともとモテとか男受けというものは自分には意味のないものだと思っていたものの、当時はやはりショックだったわよね。私の周りにもそのことが原因で落ち込む方が多いのですが、まあ気を取り直して(笑)。なるべくご主人と楽しい時間を交歓するというのがいい対策になるんじゃないかしら。私の場合、今はそういう気持ちからもすっかり自由になっているので、対男性というよりもむしろ自分自身の矜持として、女であり続けるということを大事にしたいですね。

「一緒にお仕事をさせていただいたことはなかったけれど、桃さんはずっと私の憧れの先輩でした」という大草編集長に対し、「同じ畑にいたというだけで、もう同志という感じがするわよね」と光野さん。
 
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