「この人がいたら絶対面白い」で選べば自然と障害者やマイノリティーがキャスティングに入ってくる『阿佐ヶ谷アパートメント』の制作の裏側

安全対策は万全に、そのうえで本人がどう頑張るか

ーー印象的だったのが、女装パフォーマーのブルボンヌさんと視覚障害のある競泳選手の木村敬一さんが山修行に挑戦する企画です。視覚に障害がある方が、ロープをつたいながら険しい山道を登っていくのは、サポート面でも大変だったと思うのですが、果敢に挑戦されていました。危ないからやめようという判断にはならず、挑戦する方針になった理由は何だったんでしょうか。 

真野：まず一番は、ご本人が企画にモチベーションを持っていただけたことが大きいです。 木村さんはパラリンピックで金メダルを取って、その後バンジージャンプやハーフマラソンに挑戦したり、いろいろなことに挑戦したいっていう気持ちを持っていらっしゃいました。その中で修験道をやっていただいたんですけど、木村さんのチャレンジ精神を刺激して、きっと面白いことが起きるはずという期待が持てましたし、トップアスリートにだからこそ託せる企画でした。もちろん安全対策は入念に準備して行いました。目が見えないためにできない部分で必要なサポートは必ずして、その上でご本人が頑張るのを見守るという感じで実施しました。

細川：撮影前にはディレクターが入念に下見をして、どのコースだったら大丈夫なのか打ち合わせしました。山伏の方々も目の見えない人が来るのは初めてだとおっしゃっていたそうです。撮影時には、木村さんが歩く前後をかなりの人数でサポートいただき、万全を期しました。

プロセス自体は特別変わらない

ーースタジオのセットにスロープが設置されていますが、例えば目が見えない方は介助が必要だったり、出演者によっていろんな対応が必要だと思います。福祉番組以外で障害者の方が自然に出演する機会はまだまだ少ないのが現状だと思いますが、『阿佐ヶ谷アパートメント』を観ていると、制作側の意識があればできるのではないかと希望を持ちました。

真野：車いすの方がいればスロープがいるとか、視覚障害の人にはVTRを事前に送って説明しておいてもらうとか、そういう段取り的なことは当然あるんですけど、収録上は何も変わらないです。

細川：何かすごく特別なことやっているっていう感じではないです。自分の他の番組制作経験と照らし合わせてプロセスって根本的に変わるわけじゃないんです。いろんな人がいるのだからいろんな事情がある。その人にとってできるだけベターな形で番組に参加してもらうために、必要なことをやるということだと思います。

ーー個人の特性に合わせてやるということに関して言うと、別にそれが障害や病気に限らず、誰もが何かしらの特性があるとも言えますね。

真野：例えば車椅子だと、そのまま階段では２階には上がれないので、物理的に不可能なことっていうのはあるし、例えば難聴の方は出たことはありますが、完全に耳の聞こえない方がいまの番組のスタイルでトークにどうやって自然に入れるのかというのはまだちょっと実際にはできていない部分もあります。全部がかなえられているとは思わないのですが、まずはできることをやっています。あとはやっぱり福祉番組をやってきたチームの経験、ノウハウは間違いなく大きいと思っています。

細川：こういう企画にはあの人に入ってもらったらいい、こういうテーマにはこの人がいたら絶対面白くなるっていう、キャスティングの候補の中に、既にハンデのある人たちやマイノリティーの人たちがいる。どれだけそういう方たちが当たり前にいる存在として考えられるかっていうところは結構大きいんじゃないかなって思います。僕は『阿佐ヶ谷アパートメント』を担当するまで福祉に関わることはあまりなかったので分かるのですが、バラエティー番組を作っている人たちの多くはその前提がないから、ダイバーシティーをテーマにやろうと思ったら“わざわざ探す”感じになってしまうと思うんですよね。そういう意味では、『阿佐ヶ谷』のチームはスタート地点が違う気がします。