このところ、ネット世論と、いわゆる著名人と呼ばれる人たちの見解が乖離する光景をしばしば目にするようになっています。これまでは、ネット世論に同調して意見を述べる著名人が多かったのですが、何が起こっているのでしょうか。

パリオリンピックの直前、体操女子の日本代表でエースだった宮田笙子選手(19歳)が、喫煙と飲酒によって出場を辞退する出来事がありました。宮田選手については、行動規範に違反したなどの情報提供があり、日本体操協会が聞き取り調査を行ったところ、都内で喫煙や飲酒をしていたことが分かったとのことです。

宮田選手の辞退を受けて、元東京都知事で参議院議員の猪瀬直樹氏は「たかがタバコで(中略)19歳の夢を潰すつもりか!」と発言、登山家の野口健氏も「『法律違反したら代表選手から外される』という事ならば車などの駐車違反やスピード違反でも外されるのだろうか。1キロオーバーしても取り消しか?」と述べるなど、著名人らからは宮田選手を擁護する発言が相次ぎました。

「たかがタバコで」「ルールはルール」パリ五輪で浮き彫りになったネットと著名人の“意見の乖離”は何を意味する?_img0
猪瀬直樹氏(写真は2022年当時)。写真:つのだよしお/アフロ


ところがネット上での議論や記事に対するコメントを見ると、「ルールはルール」「例外を認めればキリがなくなる」「高校野球など他のスポーツとの整合性が取れない」など、処分は妥当という意見が多いようです。著名人はネット世論を気にしながら発言することも多く、これまでなら、どこかのタイミングで両者の見解が収れんすることも多かったのですが、今回は様子が違いました。

 

喫煙はルール違反とはいえ、これまでの努力や期待される成果などを考えれば、もう一度チャンスをあげてもよいというのが著名人らの主な意見であり、その意見は、さらに多くの著名人が意見を表明しても大きく変わっていません。一方、ネットでは、このニュースが報じられた初期段階から「ルールはルール」という意見が根強く、その後、時間が経過し、著名人らが擁護する発言を行っても、論調はあまり変わっていないように見えます。

オリンピック関連では、2回戦でまさかの敗退となった柔道の阿部詩選手についても、同じような傾向が見て取れます。会場で号泣してしまった阿部選手に対しては、多くの著名人が擁護する意見を述べていました。

ところがネットの反応を見ると、少し様子が異なります。

阿部選手には同情や理解を示しつつも、試合の進行を妨げてまで号泣し続けることは控えるべきであった、選手がコントロールできないのであればコーチや関係者などが対応すべきだったなど、何らかの対処が必要という意見が多く見られます。

一連の状況を俯瞰的に眺めると、世論の形成にちょっとした変化が起こっているように思えます。