自分をねぎらってやりたいです
畑にもこの1年はあんまり出んようになっとります。何でかって? サボることを覚えたんでございます。金丸先生(近所に住む親戚の金丸純二さん、元学校の先生で、今は畑仕事を手伝ってくれる「弟子」)が畑の世話をようやってくれてじゃし、甘えておるんでございます。
それでもね、ちいと前まではこれじゃあいけんと自分を叱るもう一人の「鬼哲代」がおりました。しゃんとせえ! ってな。言い訳や横着しようと思えばいくらでもできる。甘えとったら、坂道を転げるように自分の力が落ちていく気がしてねえ。
じゃが、それから二度入院して、いよいよ横着もんになりました。庭の枯れ葉がたまっとってもそっちを見んようにしたり、夏の草むしりも熱中症になっちゃいけんって先延ばしにしたりして。ついついサボる言い訳を探してしもうとるの。「鬼哲代」もしょせん弱っちいんでございます。
やっぱり年をとったなあと思うんです。それが本音でございます。103年も一緒に歩んできた体じゃけえな。叱るんも喝を食らわすんも、ちいとかわいそうな気がしております。近ごろは、鬼は封印して、「しんどいなあ、よう頑張っとるなあ」ってねぎらってやりたいと思うようになりました。
本当は悔しいんじゃが100点のラインをぐんと下げて、ええじゃん、ええじゃんとヘラヘラ笑って過ごすようにしとります。できん、できんと嘆くんじゃのうて、ああ、これができた、あれもできたって、一つ一つに大喜びしながら自分を盛り上げるっていうんかな。悩んでもどうにもならんことは「仕方がナイチンゲール」と笑いに変えて、機嫌よう暮らすことが、らくに老いるコツじゃと思うんです。
よし、おいしいお茶を淹れるぞ、みそ汁を作るぞって声に出して気合を入れて、一生懸命に取り組んでおります。この瞬間を大事に大事に生きていきたいです。笑って生きても泣きながら生きても、同じ一生ですね。最後にすがすがしいのはどっちでしょうか。
著者プロフィール
石井哲代(いしい・てつよ)さん
1920年、広島県の府中市上下町生まれ。20歳で小学校の教員になり、56歳で退職してからは畑仕事が生きがいに。近所の人からはいまも「先生」と呼ばれている。26歳で同じく教員の良英さんと結婚。子どもはおらず、2003年に夫が亡くなってからは親戚や近所の人に支えられながら一人暮らしをしている。100歳を超えても元気な姿が「中国新聞」やテレビなどで紹介されて話題になり、2023年1月に刊行した初めての著書『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』がベストセラーに。
木ノ元陽子(きのもと・ようこ)さん
1970年、大阪府堺市生まれ。中国新聞社編集局次長。
鈴中直美(すずなか・なおみ)さん
1973年、広島県東広島市生まれ。中国新聞社報道センターくらしデスク。
『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』
著者:石井哲代、中国新聞社 文藝春秋 1430円(税込)
ベストセラーになった『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』の続編。103歳の石井哲代さんが、長く生きてきたからわかったこととは? 「哲代さんが自分の心に言い聞かせている言葉たち」を一冊にまとめた、心温まる感動のエッセー。
撮影/井上貴博、鈴中直美、
木ノ元陽子、大川万優、
坂永弥生、文藝春秋
構成/金澤英恵
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