ごつごつとぶつかり合ってこすれ合って、一つになっていく
あの瞬間のことは忘れられません。つらい顔して逝かれると残されたもんなしんどいねえ。じゃがあの人みたいに元気なときでもえっと(たくさん)笑わん人が、死ぬときになってええ笑顔をみせてくれた。やり遂げたというんかな、救われた気になりました。
この人と結婚して間違いだったんかなあと悩んだことも確かにあったん。私の人生をささげたようなもんじゃったから。そうして長年抱えてきたもやもやした気持ちを、ほんまに最期に腕の中でね、全部なくならしてくれたんですね。自分の人生が肯定された気がしました。
夫婦いうんは、最初から完成されとるもんじゃありませんね。時間をかけてつくり上げていくもんじゃなあと思います。ごつごつとぶつかり合ってこすれ合って、一つになっていくというんかなあ。相手を認めて、自分の許容を増やして。ああ、難しいなあ。
え、生まれ変わったら良英さんと一緒になりたいかって? そうじゃなあ、もう一度人生をもらえるなら——。今度は何にも縛られることなく、自由に一人で飛ぶのもええなあ。
※初掲時、記事中の人名表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
著者プロフィール
石井哲代(いしい・てつよ)さん
1920年、広島県の府中市上下町生まれ。20歳で小学校の教員になり、56歳で退職してからは畑仕事が生きがいに。近所の人からはいまも「先生」と呼ばれている。26歳で同じく教員の良英さんと結婚。子どもはおらず、2003年に夫が亡くなってからは親戚や近所の人に支えられながら一人暮らしをしている。100歳を超えても元気な姿が「中国新聞」やテレビなどで紹介されて話題になり、2023年1月に刊行した初めての著書『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』がベストセラーに。
木ノ元陽子(きのもと・ようこ)さん
1970年、大阪府堺市生まれ。中国新聞社編集局次長。
鈴中直美(すずなか・なおみ)さん
1973年、広島県東広島市生まれ。中国新聞社報道センターくらしデスク。
『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』
著者:石井哲代、中国新聞社 文藝春秋 1430円(税込)
ベストセラーになった『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』の続編。103歳の石井哲代さんが、長く生きてきたからわかったこととは? 「哲代さんが自分の心に言い聞かせている言葉たち」を一冊にまとめた、心温まる感動のエッセー。
撮影/井上貴博、鈴中直美、木ノ元陽子、大川万優、坂永弥生、文藝春秋
構成/金澤英恵
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