中年期の今こそ、やるべきこと、できることがある
でも、じゃあ中年になるということは自らの古さに怯えながら過ごす絶望の季節なのかといったら、そんなことはない。というか、そんなことはないはずだと信じたい。中年期には中年期の生き方があると『虎に翼』を観ていても感じます。
『虎に翼』に学ぶ、中年期にやるべきことはふたつ。ひとつは、自分がしてもらってうれしかったことを、次の世代にもすることです。
研究職の夢をあきらめることに決めた優未(川床明日香)。航一(岡田将生)は長年の努力が無駄になると猛反対します。けれど、寅子は涼子(桜井ユキ)や梅子(平岩紙)といった仲間を思い浮かべながら、「私は努力した末に何も手に入らなかったとしても、立派に生きている人たちを知っています」と抗議し、優未の選択を応援します。
「あなたが進む道は地獄かもしれない。それでも、進む覚悟はあるのね?」
それは、法律の世界に飛び込むことを決めた若き寅子に、母・はる(石田ゆり子)がくれた言葉。あのとき、はるが背中を押してくれたから今の自分がいる。その感謝があるから、寅子もまた優未に同じことをしたんだと思います。
そしてもうひとつのやるべきことは、それでもこの世界は良くなると信じて行動し続けること。
家裁設立のために尽力し、無償の愛で生涯を駆け抜けた多岐川(滝藤賢一)。弱き人々のために闘うよね(土居志央梨)や轟(戸塚純貴)。そして、「苦しいっていう声を知らんぷりしたり、なかったことにする世の中にはしたくないんです」と語る寅子。みんな、己の無力さを知りながら、それでもあきらめずに自分にできることをやり続けている。
思えば、「男か女かでふるいにかけられない社会に、みんなでしませんか」と呼びかけたあの日から、いいえ、もしかしたらもっと前からずっと寅子は「どういう世の中にしたいのか」ということだけを考えてきたのかもしれません。個人でも、家庭や職場でもなく、世の中という大きい単位で理想を掲げてきた。そこだけはブレなかったから、寅子はここまで来られた。
足りなかったことはたくさんある。できなかったことも、間違ったことも、きっとある。それでも、絶対にあきらめない。
自分のためではなく、次の世代のためにできることを、ひとつでも。それなりに力を蓄え、知識を増やし、経験を身につけた私たちだからできる戦いが、まだまだ中年期にも残っているのです。
そう思うと、ビクビクしてばかりはいられない。自分の古さにゾッとしたり、時には開き直ったりしながら、志を貫こう。猪突猛進な青春期より、中年期の今の寅子の姿のほうがなんだかグッと身に沁みる今日この頃です。
NHK 連続テレビ小説『虎に翼』
出演:伊藤沙莉
石田ゆり子 岡部たかし 仲野太賀 森田望智 上川周作
土居志央梨 桜井ユキ 平岩 紙 ハ・ヨンス 岩田剛典 戸塚純貴
松山ケンイチ 小林 薫
作:吉田恵里香
音楽:森優太
主題歌「さよーならまたいつか!」米津玄師
語り:尾野真千子
【放送予定】
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
※NHK+で1週間見逃し配信あり
文/横川良明
構成/山崎 恵
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