人のための香りから自分のための香りへ

50代は香水がいちばん似合う年齢⁉︎ 好きになるとおしゃれもどんどん進化していく【松本千登世・美香】_img0
松本さんがご褒美バスタイムに自分のためにまとうのは、濃密なローズが特徴的なド ジバンシィ MMW。新たなスタメンに仲間入りした、セルジュルタンス ポワンドゥジュール

――お二人とも以前とはフレグランスの選び方がかなり変わってきている印象ですが、その過程でやめたことってありますか?

松本 “人のため”をやめて“自分のため”になった、というのがありますね。きっかけはコロナ禍のときです。ずっと家にいてフレグランスを着けない日が増えて、それが寂しくて、ある晩「どうせ誰にも会わないんだから香りが強くてもいいや」と、たっぷり香水を着けて「やっぱりいいなあ」と楽しんだんです。で、そのままお風呂に入ったら、自分からフワっといい香りが舞いあがってきて。肌が香りに染まった、という感じがしたんです。以来、自分が楽しむためだけにちょっと重めのフレグランスをつけてお風呂に入る、ということを時々やるようになりました。

美香 私も残業しているとき、自分のテンションを上げるためだけにフレグランスを着けることがよくありますね。私たちが若い頃って、お出かけ前にフレグランスをひと吹き、という時代でしたよね。でも家にいても、誰にも会わなくても香りをまとうってすごく大事で。自分の世界に入れるんですよね。

 

松本 ある頃から、私は原稿を書く前にフレグランスをまとうことが増えたんですね。美容ジャーナリストの斎藤 薫さんは、「ブランドの原稿を書くのにブランドをまとわないで書けるのか? と言われたことがある」とおっしゃっていて。それでシャネルのジャケットを羽織ってサングラスをカチューシャがわりに身に着けて書いていた、なんてお話を聞いたことがあるんですけど、ちょっとその気持ちが分かるというか。美しいものについて書くのに、無味無臭の部屋じゃ書けない。だから私は時々、フレグランスやジュエリーを着けて書いたりするんです。

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美香さんのスタメンフレグランスは、松本さんもお気に入りのド ジバンシィ MMW。そしてジョーマローン サイプレス & グレープバイン コロン インテンス

美香 分かる。香りって自分へのスイッチでもありますよね。あと私は、やめたというわけではないんですけど、今はスタメンではない、というものはいくつかあります。着けると気持ちが負けるから、ということで。私はとにかくフレグランスが好きで、たくさん持っているんですね。でも、今の自分には合わないからといってサヨナラはしたくないんですよ。ただ、気持ちが酔わないものを着けたいだけ。だから今愛用している香りだって、今はコレだけど来年は違うかもしれない。そういう意味では、一時的にやめているものはある、という表現が正確かもしれません。

松本 “気持ちが酔わない香り”というのはとてもよく分かります。若い頃って、「他にない」という主張のある香りを好んでいたところがあって。それって、外の世界へのアピールだったんでしょうね。今は100%自分のために選ぶようになったから、自分が負けそうな香りを頑張ってまとおう、という気持ちは全くなくなりましたね。

美香 時代も変化していますよね。昔はあんまり香りを漂わせるのは迷惑、みたいな社会通念もあったから、どうしても人がどう感じるかを意識してしまっていたというか。

松本 でも今って洗剤も香り入りのものが増えたし、香りのいい柔軟剤が人気になっているし。象徴的だなと思ったのは、ムシューダの香りつきが登場したこと。“無臭だ”じゃないんだ!って(笑)。家庭用品に香りが求められるようになったのは、自分のために楽しみたい、という気持ちの表れですよね。