目指すは“近所のおばちゃん同士”の関係


M子 向き合うことで、母親のしがらみから抜け出すことは本当に可能なんでしょうか。

根本 もちろんできます。具体的には、一時避難で心を回復させたその後に必ず【ゆるす】というプロセスが必要になりますね。

M子 ……許すんですか? 母親を?? まったく許せる気がしないんですけど。

根本 みなさん最初はそう言うんですが(笑)、おそらくM子さんがイメージされているものと違います。別にお母さんを好きになる必要はないですよ。だって今さら「おかあさーん!」って甘えたいわけじゃないでしょう?

M子 全くないです(笑)。

根本 M子さんが目指すのは、お母さんと対等の関係になることです。子どもは生まれた時点で親の庇護下にあるので、最初はどうしても上下の関係です。本来は子どもが成長することで立ち位置が上がって対等になっていくんだけど、親に対して「許せない」といったわだかまりを持ったままだと、親と子の関係がいくつになってもキープされてしまうんですよ。いい大人なのに立場や扱いは子どものまま。だからしんどい。

「毒親という言葉は、あくまで一時的な避難場所」母がしんどいアラフォーの娘が、人生ラクになる方法を人気カウンセラーに聞いてみた_img0
イラスト:Shutterstock

関係性を本来の形に正すには、M子さんがお母さんと同じところまで上がって、対等になる必要があります。どういうイメージかというと、“近所のおばちゃん同士”ですね。


M子 近所のおばちゃん、ですか?

根本 たとえば友達と、共通の知人について「あの人はまあ、そういう人だからね〜」「しょうがないね」なんて話したりすることがあるでしょう。そうやって、いいところも悪いところも受け入れられる状態。これを【ゆるし】というんです。

これは自分の気持ちを押し込めるということではありません。いい部分も、嫌いな部分もあるし、たまにムカつくこともある。まあでもあの人はそういう人なんでね、と受け流せるようになるということ。そうやって相手の言動に影響を受けない状態が、本来の適切な距離感なんです。

M子 なるほど……。想像していたのと全く違いました。

 

根本 もともと心理学は「父と母をゆるす、そして自分をゆるす」という考え方がベースにあります。とくに日本の家庭は母親と子どもが一緒にいる時間が長いので、母親の存在が子どもの心に広く影響していることが多いんですね。“母をゆるす”という行為は、じつはセラピーの基本でもあります。

M子 心のケアや生きづらさについての本にも、よく「あなたの生きづらさは親が原因」みたいに書いてありますよね。親からの影響というのは、やはりそれくらい大きいものなのでしょうか。

根本 正直なところ、人の悩みの8割は親が原因と思います。9割、と言ってもいいかもしれない。子どもは親から他者との関わり方を学び、それは子どもの心にしっかり刻まれてその人の人間関係の基本パターンになります。たとえば、友人や恋人に対して言いたいことを言えないという人に話を聞くと、親が気難しい人で子どもの頃はつねに顔色をうかがっていた、なんてことはよくありますね。

もう一度言いますが、お母さんに期待してはダメです。それは子どもの頃の「もっとこうしてほしかった」という気持ちと同じですから。娘のあなたが今いる場所から動くことで適切な距離を取り、対等性をキープすれば、お母さんの態度や言動も徐々に変わっていくはずですよ。

根本 裕幸
1972年生まれ。1997年より神戸メンタルサービス代表・平準司氏に師事。2000年にプロカウンセラーとしてデビュー。以来、述べ15000本以上のカウンセリングをこなす。2001年、カウンセリングサービス設立に寄与。企画、運営に従事し、2003年からは年間100本以上の講座やセミナーもこなす。2015年より独立。フリーのカウンセラー、講師、作家として活動している。最新著書は『そのままのあなたが、絶対かわいい。 できない自分も好きになる30の「ほめ言葉」 』(PHP研究所)。
ブログはコチラ→https://nemotohiroyuki.jp/

構成/山崎恵
 

 

 
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