「いいことなのに落ち込む」の対処法はある? 専門医に聞いてみた

「引っ越しうつ」に「テレワークうつ」...いい変化なのにメンタル不調が起こるのはなぜ? “気分がずーんと沈む”経験をした私が専門医に聞いてみた_img0
 

何かしらの明確な原因があって、気分が落ち込み、心身に不調をきたす“抑うつ状態”になる病気として、「適応障害」というものがあります。今回は、適応障害に詳しい心療内科医の森下克也先生にお話を伺いました。

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教えてくれたのは…
森下克也(もりした・かつや)先生


1962年、高知県生まれ。医学博士、もりしたクリニック院長。久留米大学医学部卒業後、浜松医科大学心療内科にて、漢方と心療内科の研鑽を積む。浜松赤十字病院、法務省矯正局、豊橋光生会病院心療内科部長を経て現職。心療内科医として、日々全国から訪れる、うつや睡眠障害、不定愁訴の患者に対し、きめ細やかな治療で応じている。著書も多数執筆し、代表作は『もし、部下が適応障害になったら』『うちの子が「朝、起きられない」にはワケがある 親子で治す起立性調節障害』(CCCメディアハウス)など。


——「引っ越し」によって抑うつ症状が出るというのは、珍しくないことなんでしょうか。

森下克也先生(以下、森下):引っ越しは“引っ越しうつ”という言葉があるくらい、抑うつの引き金になるものです。状態が良くなってきていた患者さんが、引っ越しを機に調子が悪くなってしまうことがあります。住環境が変わるというのは、“慣れ親しんだ帰る場所がなくなる”ということです。引っ越し先が新たな自分の居場所になるまでは、ある意味異空間なんです。

——同僚がいて、横の繋がりがあった職場環境から一変。独立し、完全に部屋で一人きりになって気分が塞ぐという経験をしました。コロナ禍に会社勤めだった方たちが急にテレワークになり、気持ちの落ち込みを経験した人もいたといいます。“大勢から一人になる”という状況も、適応障害に繋がりやすいのでしょうか?

森下:“テレワークうつ”と言われる状態になる人が、コロナ禍にはよくいたんです。そうなるかならないかは、詰まるところ性格次第です。多くの人は、他者との関わりがないとつい、自分の中のネガティブな思考に引きずられてしまいますが、職場でいろんな人と接することで中和され、ニュートラルな状態を維持しているんです。一人になるとそれができません。だから、“テレワークうつ”になるんです。社交性の高い人に多い傾向があります。

その一方、コロナ禍以前も職場にあまり適応できなかった、いわゆる“コミュ症”を自覚するような人たちは、テレワークの普及によっていきいきと仕事をできるようになった。対人関係に苦手意識を持つ人たちはある意味、人間関係も自己完結しているので、自分で感情をコントロールできるんです。

 


MAXパワーで緊張状態を維持できるのは、たった「3分」

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——いい変化であるはずなのに、“うつっぽくなる”ということが起きるのはなぜなんでしょうか。

森下:自分のやりたいことをやる。楽しいことをやる。興味深いことに打ち込む。仕事が楽しい……。これらについてはいずれも、“緊張状態”と言えるんです。「やるぞ!」「よし! 頑張るぞ」と気合が入った状態は、自律神経の交感神経を緊張させる行為。なので、自分にとってはいいことでも、“リラックス状態”ではありません。

ただし、緊張状態というのは、短時間であれば問題ないんです。これが長時間続くことに問題があります。人間の体は、長時間の緊張状態に耐えられないようにできています。MAXパワーの持続可能時間がどのくらいかというと、大体3分ほどなんです。ボクシングの1ラウンドと同じですよね。肉体的にも精神的にも鍛え上げられたボクサーでも、MAXパワーを出し切って頑張れるのが3分です。ですから、断続的な過緊張状態が、いろいろな心身の不調を引き起こしてしまうのです。