緻密に書き込まれたデザイン、鮮やで大胆な色使い、プリミティブで自由な感性が魅力の「HERALBONY」。この秋、パリで開催された「LVMH イノベーションアワード2024」での日本企業として初めての授賞(ダイバーシティ&インクルージョン部門)を皮切りに、パリに子会社を設立、パリ・ファッションウィークの時期に合わせて海外初の展示会を開催するなど、海外でも大きな注目を集めています。
そのプロダクトは、障害がある契約作家(=異彩作家)が描いたアートデータをもとにデザインされたものですが、そうした背景を全く意識することなく「ほしい!」と思わせるものばかり。作品の使用料やアートを施したコラボレーションの売上の一部を作家にお支払いするというヘラルボニーのシステムは、世界を変えつつあります。それは一体どんなものでしょうか?
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既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈で制作された芸術「アール・ブリュット」。異彩作家にも共通するそんなアートが生まれたパリで、いよいよ世界進出を果たしたヘラルボニー。同社でブランドコミュニケーションを担当する海野優子さんはいいます。
※アール・ブリュット:生の芸術を意味するフランス語。「正規の美術教育を受けていない人による芸術」「既存の美術潮流に影響されない表現」などと説明されることが多い。
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「普通ではないことは可能性。世界80億人の『異彩』が自信を持って放たれる世界を目指すことが、私たちのミッション」【HERALBONYインタビュー:前編】>>
「海外チームの話を聞く限りでは、HERALBONYのビジネスモデルは海外の方にも感覚的に受け入れられているようです。素晴らしいアートは、言語や国境を超えてその魅力が伝わるのだと思います。支援や貢献とは異なる文脈で挑戦している私達に非常に共感してくれる施設もあり、今後はそういう施設にいる作家さんとの契約も増えていくんじゃないかなと期待しています」
ヘラルボニーには現在52施設、241名の契約作家がおり(2024年6月時点)、作品の使用料やアートを施したコラボレーションの売上の一部は作家にお支払いされる仕組みとなっています。
「日本において、障害のある方が働く就労施設は一般的に訓練や自立支援が目的であるため、わずかな収入にしかならないという方が大勢いらっしゃいます。でもその金額で自立した人間らしい生活をしていくことは難しいですよね。ヘラルボニーの契約作家の親御さんからは『自分が死ぬまでに、子どもが自分でお金を稼ぎ自立できるようになるなんて想像もしていなかった』というお言葉をいただくんですが、やっぱり障害のある方にとって『一般的な就労』でお金を稼ぐのはすごく大変なことがほとんどだと思います。にもかかわらず、なぜ『一般的な就労』を訓練するというシステムになってしまっているのか。その常識を疑う必要はあるのかなと思います。
Co-CEOの松田祟弥(たかや)とよく話しているのは、ダウン症の方が働くオランダのカフェ『ブラウニーズ・アンド・ダウニーズ』のこと。一等地にあるおしゃれなカフェで障害がある方が働いているんですが、意識が少し変わるだけでそういうことも全然可能だし、そうした新しい就労支援の仕方、就労施設を作り出すことは、ヘラルボニーだからこそできることだ思うんです。障害のある方の素直なコミュニケーションにはすごく元気がもらえるし、一般社会との接点を多く作ることで、差別や偏見も減るんじゃないかなと。様々な企業とのコラボレーションも、普段の生活の中で障害のある作家さんを知っていただき、イメージを変えるいい機会になると思います。同時に障害のない人にとっても、そうした社会の多様さを面白いと思えることそれ自体が、本質的に価値のあることだと思うんですよね」
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