それ以来、母親の食が細くなり、体重が落ち始めてしまったため、相談に来られました。認知症になってほしくないから野菜中心に食べてほしいのに、あまり食べてくれないという相談内容でした。娘が調べたのは、全て医師や栄養士が監修した記事や本で、それを信じて突き進むには十分な内容でした。
しかし、冷静になって外側から俯瞰すれば、物事のおかしさに気がつけるはずです。認知症予防を強調しすぎるあまり、食べることの幸せが失われ、体重が落ち、健康を害することになっていたのですから。これでは本末転倒です。
もちろん、娘の母親を想う気持ちは十分理解できるものです。また、実際牛肉や豚肉などの赤い肉やソーセージやハムといった加工肉は、認知症リスクを増やす可能性を示唆する研究(参考文献3)もある食品です。このため、科学的にはあながち間違った理解や行動をしていたわけではないかもしれません。
栄養をちゃんと取れることが何より大事
しかし、この場合、肉によってもらたされる認知症リスク以上に、摂取するタンパク質が減ってしまったこと、また総じて摂取する栄養が減ってしまったことによる体重減少、ひいては筋肉量の減少や転倒のリスク、また食べる幸せを失ったことによる精神的な影響の方が懸念される状況です。それならば、むしろ好きなだけ肉を食べてもらった方が健康にも認知症にも良いといえるかもしれません。
このように、一見害のない食品でも、何かに傾倒することには、それを過剰に摂取することによるリスク、摂取し続けることでその他の必要な栄養素を欠くリスク、食べる幸せや豊かさが失われるリスクがあります。
また、そのような健康食品は、「認知症に効く」という宣伝を盾に、食品の持つ本来の価値に見合わないような高額な値段をつけられている場合もあり、高いコストを支払わされるリスクもあります。こうしたリスクと、必ずしも科学的に明確になっていない効果のバランスを考えれば、自ずとどうすべきかの答えは見えてくるはずです。
『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社
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高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。
一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。
ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。
参考文献
1. Sano M, Ernesto C, Thomas RG, Klauber MR, Schafer K, Grundman M, et al. A controlled trial of selegiline, alpha-tocopherol, or both as treatment for Alzheimer’s disease. The Alzheimer’s Disease Cooperative Study. N Engl J Med [Internet]. 1997 Apr 24 [cited 2024 Oct 31];336(17):1216–22. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9110909/
2. Miller ER, Pastor-Barriuso R, Dalal D, Riemersma RA, Appel LJ, Guallar E. Meta-analysis: high-dosage vitamin E supplementation may increase all-cause mortality. Ann Intern Med [Internet]. 2005 Jan 4 [cited 2024 Oct 31];142(1). Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15537682/
3. Kivipelto R 1, Mangialasche M, Ngandu F&, Bouvard T;, Loomis V, Guyton D. Meat consumption is associated with higher dementia prevalence: a cross-sectional analysis of UK Biobank. Proceedings of the Nutrition Society [Internet]. 2021 [cited 2024 Oct 31];80(OCE1):E9. Available from: https://www.cambridge.org/core/journals/proceedings-of-the-nutrition-society/article/meat-consumption-is-associated-with-higher-dementia-prevalence-a-crosssectional-analysis-of-uk-biobank/0D7F0508326F5E5D53ED2E6EA5B44EC1
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