変わらずにはいられなくても、あの頃にすぐ戻れるふたりは大丈夫
私はその話を聞きながら、ふたりがいままでどれだけの思いでこれまで過ごしてきたのか、その気持ちは計り知れないし、私がそれを想像しても想像し足りないし、微笑みながら、理性を保って、冷静にあたたかく話してくれたおりんに申し訳ないし、お門違いすぎると思い、渾身の力で我慢していた涙を、あっ! と思った次の瞬間にはもう遅く、うかつにもこぼしてしまった。
ふたりがこれまでどれだけ泣いて、どれだけ受け入れ難い変化を受け入れて、あたかも何も変わっていないように振る舞える技術をなんとか修得して、あの頃と変わらないと感じさせる努力をして私に会いに来てくれたのだということに気づき、部外者の私が泣いたりしてほんまにごめんと思いながら、「うちらも学園都市も変わらへんなあ」とさっきまで言っていた自分を猛省した。
住んでいた団地も、あかみちのいちょうも、陸橋も、公園も、小学校も中学校も、クレープ屋のおっちゃんも、みんなみんな変わっていて、でも、変わっていないと感じさせるように努力しているのだよな。誰かが整備したり、修理したり、変わらない味でいられるように、いろんなことがあったやろうけど、がんばって変わっていないように見せてくれているのだよな。努力せずして変わらないことなんてないのだよなと思った。
小学校や中学校の同級生や先生たちも、あのときと同じでいられる人なんてひとりもいなくて、変わらざるをえなくて、きっと私だって、この街に住んで無邪気に、でも悩んだり、失敗したり、自分のことを受け入れられなかったりしながらも大笑いしていたときとは変わりに変わっているけれど、幼馴染のおりんの前ではあの頃あった思い出と、あのときのノリを解凍するように再現できて、あたかも変わっていないように、自然とあの頃のふたりに戻れることが嬉しくて、それがどれだけ尊いことか、同じ時間を過ごしたことがあるということがどれだけの強度がある繋がりなのかということを実感した。
おりんとふたりでちゃんと会って話したのは10年ぶりくらいだったと思う。
これまでそんなに頻繁に連絡し合っていなかったし、昨年再会するまでは疎遠と言えば疎遠だった。それぐらいの距離感だった。
でも、それぞれの変化が作用して、また交差することになれば、それまで会っていなかった時間なんて何も問題ではなく、むしろもっともっと大きな喜びのための助走期間だったと思えるぐらいの特別な再会になり、そして、お互いにとって今会うべくして会ったんだと感じる絶妙なタイミングだったんだと思う。
人間関係とは雨水のようで、川に降る雨なのか、海に降る雨なのか、湖なのか、森なのか、都市の水たまりなのか、どこに降るかによって留まったり、流れたり、染み込んだりしてその時々でそれぞれ滞在する時間も違うけれど、いずれはまた蒸発して、雲になり、またどこか違う場所へ向かい、雨として降ることになる。
循環するように人に出会い、留まり、交流して、別れがあり、再会もある。
そのときどきで、その場所で、その時間を慈しみ、享受できるように、変化して変化して、誰かとの「変わらない」を共有して笑ったり泣いたりできるように、私は次の場所へ蒸発するまで、この場所に染み込みたいと思った。
おりんとも、おみねくんとも、たぶんこれから一生のお付き合いになるだろうし、たとえ会っている時間が短くとも同じ場所で、同じ時間を過ごしたことがあるんやから、いくら変わったって大丈夫。
また、「うちら変わらへん」って言い合おうな。
どこにいたって、なにがあったって、私たちは学園都市の水たまりになったことがあるんやから、大丈夫。
駅の改札まで見送ってくれたおりんと見えなくなるまで手を振り合って、神戸市営地下鉄に乗り、ひとりで車両の椅子に座りながら流した雨水はいつの間にか蒸発していて、つぎはどこで会えるかな。
<INFORMATION>
坂口涼太郎さん出演
映画「アンダーニンジャ」
2025年1月24日(金)公開予定
忍者は世界中に忍び、現代いまでも暗躍している。その数、約20万人――。
誰も観たことが無い“現代忍者エンターテインメント” が幕を開ける!!
太平洋戦争終結後、日本へ進駐したGHQが最初に命じたのは「忍者」組織の解体だった。それにより全ての忍者は消滅したかに見えたが、彼らは世界中のあらゆる機関に潜伏し、現代でも暗躍していた。その数は約20万人と言われている。忍者組織「NIN」に所属する末端忍者・雲隠九郎(下忍)。暇を持て余していた彼はある日、ある重大な “忍務” を言い渡される。それは戦後70年以上に渡り地下に潜り続けている、ある組織の動きを調べること。その名は――「アンダーニンジャ」。忍術、知略、そして最新テクノロジー。すべてを駆使した、かつてない戦いが今、始まる――‼
原作:花沢健吾「アンダーニンジャ」(講談社「ヤングマガジン」連載)
脚本・監督:福田雄一
プロデューサー:若松央樹、大澤恵、松橋真三、鈴木大造
文・スタイリング/坂口涼太郎
撮影/田上浩一
ヘア&メイク/齊藤琴絵
協力/ヒオカ
構成/坂口彩
前回記事「「ドムドムしかなかったのに、いまやスタバもあるねんで」団地に住む小学生だった私の久しぶりの里帰り【坂口涼太郎エッセイ】」>>
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