医療ライターの熊本美加です。

コロナパンデミック以来、使用頻度がグッと高くなった電子体温計。ところがここ最近「ピピッ」という音が聞き取れず、「これ感度が悪い?」とブンブン振ったり、測り直したりが度々。さらに、会話の最中に「えっ?」と聞き返すことが増えてきて、「自分の耳が遠くなっているかも……」と気になっていたのです。

そんな折、ショックなことが――。私は心肺停止から蘇ったという経験をもつのですが、それ以降、地域とのつながりを求めて手話を習い始め、すでに4年目になります。その手話講座の最中に、DVDから流れる音声が聞き取れなかったのです。元の音声が聞こえないと当然、手話での通訳はできません。その日の講師への質問紙に、聞き取りに不安がある旨を書いて提出しました。

すると、翌週の授業で私の質問が取り上げられました(だれの質問かは伏せられていました)。スライドに映しだされた「耳が遠くて音声が聞き取れないとき、手話通訳はどうすればいいのでしょうか?」という質問を教師が若干笑いながら読み上げると、次に映ったのは「まずは医療機関へ」との大きな文字。受講生全員がドッと笑いました。続けて「知識不足」との文字。「知識があれば多少聞き取りにくい状況でも、単語をキャッチできるはず」との説明がありました。「確かにそうかもしれないけど……」私はやり場のない絶望感に襲われたのです。

家電製品の電子音が聞こえない。40代からはじまる耳の遠さを放置してはいけない理由_img0
写真:Shutterstock

後日、近所の耳鼻咽喉科で聴力検査を受けました。私は50代ですが、結果は同世代の半分程度しか聞き取れていない難聴で、補聴器を検討するレベルとの診断。治ることはなく、この先は悪化を食い止めるしかないという辛い現実を突きつけられたのです。

 

友人たちに打ち明けると、「私も耳鳴りがひどくて、病院に駆け込んだら突発性難聴だった」「会話が聞き取れなくて、適当に相槌をすることがある」など、聴こえが悪いことでのトラブルを抱えている人が想像以上に多いことがわかりました。

「加齢による難聴は40代ごろからはじまります」。そう教えてくれたのは、成瀬はやし耳鼻咽喉科・院長の林武史先生。人生100年時代と言われる今、40代のうちから聴こえに意識を持っておかないと、認知症など、将来のさまざまなリスクにつながるといいます。今回は先生に耳の聴こえについてお話を伺いました。