聞こえにくさがうつ病や認知症の引き金に


耳鼻科医として、林先生が補聴器を根気よく調整しながら使用してほしいと話すのには理由がありました。

「会話が聴こえないことが増えると、聞き返すのもだんだん面倒になり、適当なうなずきでその場をやり過ごすなど、意思疎通がうまくいかなくなります。それを繰り返しているうちに会話自体が減って、人と会わなくなり、孤立につながってく。それがうつ病や認知症といった病気の引き金になることもあるのです」

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写真:Shutterstock

長寿社会を生き抜くためには、早くから聴こえの度合いに意識を向けたり、聴こえが悪くなったとしても筆談や会話を文字変換してくれるアプリを活用し、コミュニケーションを諦めないことが必要でしょう。また、耳が遠い人に対し、ゆっくりはっきりと話しかけるなど、周囲の理解も大切です。

“聴こえにくい”という私の悩みに、手話講座で教師と生徒のほとんどが笑ったこと。その理由はわかりませんが、私の胸にできたしこりのようなものは消えないまま。コミュニケーションのための技術を磨くことと、実際に障がいを持つ人の心に寄り添えるかどうかは別問題なのかもしれないと感じました。

 

聴力のみならず、加齢とともに少なからず感覚器の劣化による障がいは誰にでも訪れます。障がいのある人ない人が関わり合い、互いの違いを理解し、認め合い、共に生きる社会実現。ハードルは高いですが、何かやれることがあるはずと考えずにはいられません。

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林 武史(はやし たけし)
成瀬はやし耳鼻咽喉科・院長。医学博⼠、日本耳鼻咽喉科学会 認定専門医、厚労省認定 補聴器適合判定医、日本耳鼻咽喉科学会 補聴器相談医ほか。⼤学病院や地域の医療機関で、⽿⿐咽喉科医として、乳幼児の先天性疾患や急性疾患から⾼齢者の癌や慢性疾患まで幅広い症例を診察。年間150件以上の手術を行う。そこで培った臨床経験を活かし、地域医療に密着貢献のクリニックを2017年に開業。


取材・文/熊本美加
構成/宮島麻衣

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