駐妻という幻想
「『接待だ! 日本からくる取引先を接待するのも俺の仕事だ。好きで猥雑な店に行ってるわけじゃない。下見がてら会社には言えないような項目の経費も切らなきゃならない。このことは会社に言ったら承知しないぞ。下手したら強制帰国だ』そんなふうにまくし立てて、あきらかに破綻した論理で逆切れしてきました。
夫の手がぶるぶる震えて、ものを手当たり次第に投げることにびっくりして、それ以上論理的に追及することはできませんでした。給与口座の流れを私が握っていればそこから攻めることもできたでしょう。でも私は生活費をもらっているだけなので他のお金の流れがわかりません。
夫の浮気や会社の規定違反を追求することもできない。海外で、お金の自由もない。相談するひともいません。駐妻というキラキラした語感に踊らされていたけど、実態はそんな有様です。家庭の中でも、社会的にも力がない。そのことをつきつけられた気がしました」
これ以上、例えば写真を撮って会社に送り、泣きついたところで、結局は幸子さんと子どもの生活も脅かされてしまいます。下手したら仕事も失ってしまうかもしれない。どうにか夫と誠心誠意話し合って、二人で正しい方向へ行きたいと幸子さんは考えます。
ところが、さらに予想外の「恐怖の事件」が幸子さんを襲ったのです……。
後編では、思いもよらない事件と、夫婦の仲に与えた影響を伺います。
写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
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