「しまったー! やってしまったー!」の熊手1年目から学んだ教訓
33番の売り場にはニューエラのキャップをかぶった溌剌としたお姉様がいらっしゃり、私たちは緊張の面持ちで地球人のお姉様から酉の市の熊手を買うというミッションを遂行しようと、「あの……はじめてなんですけど!」と宇宙人も熊手も1年目感まるだしの一言めを繰り出すと、お姉様は「はじめてだったら小さいものからはじめるのがいいかもねー」とおっしゃり、やっぱりここからどんどん大きくしていく前提の言い方! と改めて緊張しなおし、ということはこの初期設定を小さくすればするほど今後の猶予に繋がるのではないかと、一番安いものを見てみれば、それは熊手ではなく小さき置き物。これよりはもう少し熊手感のあるものがいいなと思い、自分の気に入った熊手の金額を聞いてみれば「3000円」ということだった。
さ、3000円か。初期設定として、ちょっと高いのではないか。
私はとなりにいる仲間の宇宙人をそっと見てみれば、同じ熊手を持ちながら神妙な面持ちで、「これから無事に生きたとして、80歳になったら……熊手の金額は……」という私と同じようなことを考えている表情をしている。
縁起のいい日なのに、眉間に皺を寄せて神妙な面持ちで未来への不安を感じて固まっている私たちに気づいたニューエラのお姉様は、「わかった! じゃあ2000円でいいよ!」と視界がぱっと明るくなるような一言を発してくださり、「それに、別に来年同じ大きさでもいいんだよ!」とさらに視界が晴れるような一言を私たちに打ち込んでくださり、私たちはその年、3000円の熊手を2000円におまけしていただき、お迎えしたのだった。
しかし、のちに酉の市のことについて調べれば、そのおまけしてくれたのは「負けた!」「勝った!」という意味に由来する酉の市ならではの気前のいいやりとりであり、「まけた!」「買った!」という掛け声のあと、そのまけてくれた分の金額をそのお姉様にご祝儀としてお渡しするのが粋な買い方だということを知り、宇宙人の私たちは床に手をつき、ばんばん叩きながら「しまったー! やってしまったー!」と地球での失敗を悔やんだ。
翌年、お姉様に「昨年はどうもすみませんでした」という第一声を発し、粋な買い方の話をすれば、「あれは別にいいのよ! 今はあんまり関係ないから!」と本心なのか私たちへの慰めのためなのかわからないやさしきお言葉をくださり、「今年はできれば3500円」と思いながら熊手を見れば、めぼしいものがなく、お姉様に「3000円のつぎに高いものはありますか?」と聞けば、「これかな!」と言って枡に龍が入った置き物を指差し、「5000円!」とおっしゃった。
「ご、ごせんえん!?」
私たちは固まった。
毎年500円刻みでいこうと思っていたのに、いきなり2000円もハードルが上がるとは! このペースでいったら将来……と蒼白になりながら「……あ、でも今年も同じ大きさのものでもいいんですよね? それに、去年まけていただいて2000円でお迎えしたから、考えようによっては大きくしたことに……」ともごもごと聞けば、「いや! 熊手は毎年大きくしていったほうがいいね!」というとどめの一撃を私たちにお見舞いし、宇宙人ふたりは心の中で「えー! 去年は同じ大きさでもいいって言ってたのにー!」と地球でのカルチャーショックを受けて意識が遠のいたけど、「でも、去年1000円まけてくださっているのやし、ここはお姉様のいうことを聞こうや」と、テレパシーを通わせ頷き合い、かろうじて小さな熊手がついた5000円のほぼ枡である置き物をお迎えした。
本当は4000円のものもあったのだけれど、酉の市には一の酉、二の酉、多いときには三の酉まであり、私たちが行ったのは後半の酉だったので、もう4000円の熊手は売り切れてしまったのだそうだ。
私たちがぼやぼやしていたから2年目にして一気に2000円もハードルを上げてしまったのであり、自業自得。しかし、学びにもなり、「これからは必ず一の酉に行こうな」と固く誓い合ったのであった。
そして、その誓いもあり、今年は酉の市の初日に意気込んで向かえば、またいつものお姉様が迎えてくださり、今年は招き猫が宝塚歌劇団のトップスターの羽根飾りのように熊手を背負い、そこに米俵や小判や打ち出の小槌や恵比寿様が飾られている1000円プラスの6000円のものをちゃぶ台の前にある私なりの縁起が良いものたちがにぎにぎとひしめいている祭壇にお迎えしました。
仲間の宇宙人おカーリーとは「もしどちらかが大富豪になっても、お互い最小限の単位の金額で刻み続けて、少しずつ大きくしていこうな。抜け駆けはなしやで」と固く約束した。
ワレワレは地球の神との契約をこれからも更新し続け、この地球で人間のことを学びながら熊手を大きくできるだけ大きくして生活していくことを誓います。
地球での平穏な生活を願って、ちゃちゃちゃんちゃちゃちゃんちゃちゃちゃんちゃん!
<INFORMATION>
坂口涼太郎さん出演
映画「アンダーニンジャ」
2025年1月24日(金)公開予定
忍者は世界中に忍び、現代いまでも暗躍している。その数、約20万人――。
誰も観たことが無い“現代忍者エンターテインメント” が幕を開ける!!
太平洋戦争終結後、日本へ進駐したGHQが最初に命じたのは「忍者」組織の解体だった。それにより全ての忍者は消滅したかに見えたが、彼らは世界中のあらゆる機関に潜伏し、現代でも暗躍していた。その数は約20万人と言われている。忍者組織「NIN」に所属する末端忍者・雲隠九郎(下忍)。暇を持て余していた彼はある日、ある重大な “忍務” を言い渡される。それは戦後70年以上に渡り地下に潜り続けている、ある組織の動きを調べること。その名は――「アンダーニンジャ」。忍術、知略、そして最新テクノロジー。すべてを駆使した、かつてない戦いが今、始まる――‼
原作:花沢健吾「アンダーニンジャ」(講談社「ヤングマガジン」連載)
脚本・監督:福田雄一
プロデューサー:若松央樹、大澤恵、松橋真三、鈴木大造
文・スタイリング/坂口涼太郎
撮影/田上浩一
ヘア&メイク/齊藤琴絵
協力/ヒオカ
構成/坂口彩
前回記事「「人生の答えはいつも掴めないものやねん」自虐のどん底から引き上げてくれた「自分なくし」という言葉【坂口涼太郎エッセイ】」>>
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