二番目の嬉しいことは、着付けがシンプルである点。使用する紐類は基本、伊達締め2本と腰紐2本の4本だけ、しかも着付け後も残すのはそのうち3本。体に当たるような硬いものは使わない。
私が人に着付けをしてもらったときには、もっとたくさんの紐やゴムを使っていたため、この少なさで着付け出来てしまうことに驚いた。さらにレッスンが進むと、場合によってはあと2本抜いても大丈夫と教えてくださり、それからは腰紐1本しか締めていないこともある。紐の少ない着付けは着心地がよいだけではなく、複雑すぎず、仕組みを覚えやすい。理にかなっていて、過不足ない手数で綺麗に仕上がる。この職人技に近い、引き算の美学的な手法が、私の美意識に強く「好き!」と訴えかけた。
三番目の嬉しいことは、着付けが美しく仕上がり、ファッションという視点でも楽しいことだ。今も胸に熱く響き、ワクワクさせ続けてくれる先生の言葉がある。
「着物は畳むと綺麗に平らになる、つまり直線で作られているでしょう。その平面と直線を、立体にしていく、体の曲線に沿わせていくのが着付けなの。どんな風に沿わせて、どんな立体にするかは、その人のセンス次第。だから着付けする度に、あなたはデザイナーになっているのよ」
なんてときめく考え方。確かに、着付けをする度に、どこを長く出す、どこに余裕を持たせる、どこは詰める、など自分の美的感覚と対話しながら着姿を作り上げている。回を重ねるごとに「私はここをこうしたい」というこだわりも出てくる。締め具合も自分なりの「丁度良い」を発見していく。この作り上げていく感じが、とても楽しいのだ。
そして、森田先生ご本人の着姿が美しく、また「信念」を感じさせてくださるため、その姿に憧れ、少しでも近づきたいと思う気持ちが、さらに「デザイナーとして」切磋琢磨しようという心にも繋がる。
気づけば、着物も着付けも、本当に大好きである。
世界も広がるばかり。反物や帯の伝統的な作り手や技法にも自然と興味が湧くようになった。畳むと平らになる着物はパッキングしやすく、着物オンリーの旅にも出た。夏休みのカナダに着物を持参し、海外で着るという夢も叶えた。
朝ラジオの前に着付けをし、着物でマイクの前に座ることも少なくない。実は、帯が腰と下っ腹を支えてくれるので、着物の日はミキサーさんが驚くほど声の出が良い、という副次的効果もある。
多くの場面で着てみて気付くのは、着物の優秀さだ。冷房が効いている場所でも、冷えの心配はない。帯紐や帯揚げなど小物を変えただけでまったく印象が変わるから、どんなオケージョンにも合う。着物、帯、小物の色合わせも洋服よりもタブーが少なく、コーディネイトの失敗がない。
何より、日本人女性を、物凄く恰好良く見せてくれる。着物は隠してほしいところは隠し、年代関係ない、うなじや仕草で勝負ができる。纏うものひとつで、人は内側から自信が湧き、自然と存在感も増すから不思議である。ということで、体のどこかが多少垂れてきても、二の腕がたるんできても、ヒールが無理になっても大丈夫! 着物が助けてくれるから。
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